なまえ先輩に一目惚れした。惚れっぽい自覚はあったが、なまえ先輩は特別だ。それは3年生の実技を見学するという授業の時であった。可愛いのに凛々しくて、男子にも負けず劣らず果敢に立ち向かっていくのにしなやかで、にかっと笑う純粋さ。なまえ先輩の周りはいつもキラキラと輝いていて、どこにいてもなまえ先輩なら一発で見つけられる自信があった。名前をはじめて知った時、その文字の羅列は特別に感じたし、どういう風に笑うんだろうとかどんな字を書くんだろうとかそういうことばかりが頭をぐるぐるした。
「なまえ先輩!!俺1年A組の上鳴電気って言います!!好きです!!」
「考えとくね、電気くん」
「なまえ先輩!!いやあ、今日も可愛いっす!!」
「電気くんの髪型もキマってるよ」
「なまえ先輩、一緒に昼飯どうっすか?」
「気持ちだけありがと、電気くん」
会うたび会うたび告白したり、可愛い綺麗と知る限りの褒め言葉でなまえ先輩を褒めちぎったりしたけれど、にこにこと交わすなまえ先輩はなんだか大人で、一枚上手という感じだった。
「なまえ先輩!俺に勉強教えてください!」
「いいよ」
「えっ、いいんすか」
「うん、いいんすよ」
待ち合わせた巨大な図書室は夕暮れに染まる。先に着いていて余裕のあるところを見せようと思ったが、なまえ先輩が日当たりの良い席をばっちり確保してくれてあって、やっぱり大人だという馬鹿な感想しか浮かんでこなかった。
「すいません、待たせました?」
「今きたとこ」
頬杖ついて、悪戯に笑うその姿に、今までで一番きゅんと心臓が高鳴った。峰田やら瀬呂には、脈がないんじゃねえのと言われ続けたし、切島には、あまり関わったことのない先輩のどこを好きになったのかと何度か問われた。理屈で説明できなくて、確かに全てを知っているほど関わりもなくて、先輩に振り向いてもらえるという約束もないのに、四六時中なまえ先輩のことを考えてしまうのだから俺はなかなかに重傷だ。しばらく教えてくれていたのだが、やっぱり何せ相手はあのなまえ先輩だ。ちらりと盗み見る。睫毛は長くて上を向いてカールしていて、形の良い唇は愉快に動く。好きになったところって、わざわざ並べて理由にしなくちゃいけないなんてあるのだろうか。本能で先輩に惹かれているというくらい、ここが可愛いとかこれが好きになった決め手とかそんなものがちっぽけに思えた。色っぽく髪の毛をそっと耳にかける先輩が、ふと顔を上げる。
「電気くん、どうしたの?」
「なまえ先輩、好きです」
「電気くん、好きだよ、わたしも」
「えっ、?!えええ?!」
「本命チョコ。付き合ってみよっか」
図書室で食べたの、内緒ね。がさごそと鞄を探り、驚嘆の声をあげる俺の口に甘ったるいチョコレートとナッツの味が広がった。マンディアンを俺の口に放り込む時になまえ先輩の指先が俺の唇に微かに触れてじわっと頭が熱っぽくなる。やっぱりなまえ先輩には、敵わない。
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