真紅と黄金のユニフォームを纏うと身も心もしゃんとするような感覚になる。俺たちだって、毎日毎度おちゃらけたり、悪戯ばかりっていうわけじゃあない。クィディッチだけはどんな授業よりも好きだ、それはもう、悪戯と同じくらいに。それに、今日は練習とはいえ特別背筋がぴしっと伸びる。兄弟がにやにやと脇腹を突いて「かっこいいとこ見せなきゃな」なんて、わかってる、当たり前だろ。応援席をぐるりと見渡せば、やっぱりちゃんと一番に見つけられたりなんかして。ひらひらとちいさな手を控えめに振る彼女に手を振り返す。近くにいるロニー坊やがぶんぶんと手を振り返すが、断じてお前にではない。そんなロニー坊やは放っておいて、オリバーの話を聞きながらちらちらと彼女に目を向ける。とろけるようなあまい微笑みは、ホットケーキの上にとろけるバターのような優しさ。彼女の周りだけ、全世界が祝福したような真っ白い光が降り注いでいるみたいだ。彼女を横目にオリバーの掛け声に合わせて箒に飛び乗る。3、2、1で地面を蹴り上げて宙を舞う。クラブをギュッと握る手にもどうやら気合いが十分であることを感じられる。さあ来い暴れ玉。今日の俺はひと味どころか、ふた味も違うぜ。





今日の練習の出来は最高だった!フレッドとの息もよく合ったし、ブラッジャーもよく叩き返した、コントロールももちろん抜群だった。快晴の空の下、揺れる淡い色が俺のもとに駆け寄ってくるのが見えて、慌てて額にぺっとりとはりつく前髪を直したりした。


「ジョージ!!」
「?!」
「すっっっっごかったね!!ほんとうだよ!!」


桃色の頬を熟れたトマトのように真っ赤にさせ、目をダイヤモンドのようにキラキラとさせながら興奮する姿がちいさい子みたいで、思わず吹き出してしまった。まったく、素直な子だ。嘘なんて、きっとつかないんだろうし、つけないだろう。形のよい唇が何度も呼吸を繰り返し紡ぎ出す言葉は全部本物なんだろうなあ。俺とは違う。ちょっと見栄張ったり、ナマエに対しての気持ちを素直に言えないでいるのに。俺が捻くれている分、もしかして彼女が素直に生きているのかも。


「わたしね、恥ずかしいんだけど、はじめてちゃんとクィディッチを見たの。わたし運動苦手だし、縁なんてないんだろうなあって。だけど、こんなに、素敵な競技だったなんて!それにね、ジョージもとても、格好よかったよ!ブラッジャー、だっけ、暴れ玉をあんなに上手に打ち返したりなんて、きっとジョージにしかできない!って思ったの!」


自分の頬が今熱いのはきっとクィディッチの練習のせいだけじゃないんだろう。俺の髪と同じ色に染まっちゃってるんじゃないか、ってくらい。彼女のあまりの素直な言葉に、照れてしまって言葉が出ない。フレッドだったら、ここで気の利いたジョークのひとつでも言えただろう。(…ちょっとヘコむなあ)「ジョージ?」彼女が顔を覗き込む。いつの間にかシャイな俺の視線は少し下を向いてしまっていたらしい。彼女って、ほんとうにまっすぐ素直で、砂糖菓子みたいにあまくできているのかも。


「ジョージ、嘘だって、おもってる?わたし、クィディッチのことはよく知らないけれど、ほんとうにジョージが素敵な選手だって思ったの。ジョージ、ほんとうにクィディッチが好きなのね、目がキラキラしてたもの!」


ああ、とろけてしまいそうだ。今すぐ抱きしめたい!(なんて、出来ないんだけど)心の底から湧き上がるあまい気持ちを何とか抑える。


「ほんと、嬉しいよ、ナマエ」


陽も傾き、山のふちが菫色に染まる。紙袋から彼女ががさごそと何かを取り出して俺に手渡す。小さな箱、開けてみて、と言わんばかりの表情に笑いを堪えながらも開けると、重なる檸檬の輪切りが太陽の光を目一杯受けてキラキラと輝いている。


「これね、檸檬の蜂蜜漬け。わたしの暮らした国ではスポーツの後に食べるといいって言われてたから」
「!!あ、ありがとうな」


「ナマエー!」と彼女を呼ぶ声がする。ハーマイオニーだ。行かなきゃ、ほんとうに素敵な時間だった!と満面の笑みでスカートを翻して走っていく彼女はシンデレラか、はたまた不思議の国のアリスか。それなら俺は、王子かもしくは兎だろうか。できれば、彼女の隣に並ぶなら前者がいい。大人びたところもあるのかと思えば天真爛漫な子どものような表情をしたり、幼いのかと思えば時々花を添えたような大人な顔を見せる。あーー、とひとり情けなく呟き、髪をくしゃくしゃにしてしゃがみこむ。


「……ナマエ、好きだー…」


一口、檸檬を口に放り込む。檸檬の程よい酸っぱさと蜂蜜のまろやかさが口に広がる。今の俺にはぴったりの味だ。真紅と黄金が、ナマエの頬と檸檬を彷彿とさせて、ゆらゆらと揺れて視界を踊る。いっそ甘酸っぱさに落ちてしまえ。可笑しなワンダーランドだって煌びやかなお城のダンスパーティーだって、ナマエとならきっと最高だ。



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