最近ジョージの様子が可笑しい。何が可笑しいかって、もうすべてにおいてだ。兄のまわりを漂う空気はまるで浮遊魔法をかけられたようにふわふわと浮つき、甘ったるい糖蜜ヌガーのようにとろけてしまいそうだった。僕までその甘さに充てられそうだ、と綿飴のようなミルキーカラーに包まれる兄の未だ嘗てない変貌ぶりにスコーンを齧りながらわざとらしく首を振りおおきな溜め息をついてやった。
「ロン?どうしたの、溜め息なんてついて」
ハリーが目をまあるくしてこちらを見る。やれやれというふうに顎でジョージへ視線を移させる。かぼちゃスープをスプーンでくるくるとまわすジョージの目はうっとり、頬杖なんかついちゃって、口もとは緩みっぱなしで情け無いったらありゃしない!その様子を、ジョージと仲のよいリーやアンジェリーナ、ケイティたちはクスクスと笑う。フレッドだけはクスクスというより、にやにやだが。
「あー、ジョージ?」
「あいつ、可笑しいんだぜ!前なんか朝食のヌガーをトン・タン・トフィーに変えたりしてたんだ、それなのに最近ぱったり僕への悪戯がなくなったんだよ!いや、嬉しいんだけど…なんていうか、こう、甘ったるい感じ」
「あらあなたってば、わからないの?」
ドンッと目の前に分厚い本達が積まれて一瞬星が弾けたような感覚に瞬きをする。嫌味ったらしい声に顔を上げるとやっぱりハーマイオニーが、呆れ返った顔で僕を見ていた。うーんと考えるそぶりを見せるものの、わからないものはわからない。あーあ、やってらんないよ。
「わからないよ!僕、あいつのあんな姿見たことないんだから」
そう言い返すと、ハーマイオニーはやれやれというふう、ハリーは少し困ったふうで、顔を見合わせる。(なんだよ、僕だけのけものか…!)「あのねえ、ロン、」とハーマイオニーが何か言いかけた時、ひゅーと口笛を吹いてジョージを小突いたにやつくフレッドの視線を辿る。(「おはよう、ハーマイオニー」「おはよう、ナマエ」)通りすがった彼女の顔は見えなかったけれど、ふわっと頬を撫でる控えめな石鹸のような香りに浚われそうになる意識を慌てて取り戻し、ハーマイオニーに尋ねる。
「…本当の本当に、あなたわからない?」
「あっ、彼女って、クィディッチの時にいた…っていうか、知るわけないだろ!彼女がどうかしたの?」
思い出した。この間のクィディッチの練習の時に少し遅れてハーマイオニーの隣にいた彼女だ。僕はハリーの応援に夢中だったからあまり彼女のことを覚えてないんだけど。(…でも、ちょっと可愛かったな)さっきの僕がやったように、今度はハーマイオニーが溜め息をつく番。それを投げ捨てて、ジョージたちの方へ視線を移動させる。恐らく彼女のために空けられていたであろうジョージの隣に座る彼女の肩越しに見えるジョージの顔がさらにみっともなく緩んだり、心なしか時々ドギマギしているように見えたりした。フレッドとふたり、悪戯を仕掛ける時の笑い方とも違うし、クィディッチをプレイしている時のしたり顔とも違う。ふたりの周りだけコットンキャンディに包まれている。甘ったるくてふわふわで、ほのかに鼻をくすぐる心地よい彼女の残り香に僕も充てられてしまっているのか、以前見たことのある彼女の艶やかでしっとりとしたパールのような瞳を思い出しては、ジョージの浮かれる気持ちが少し、ほんとうにほんの少しだけわかったようなわからなかったような複雑な気持ちになるが、浮かれて馬鹿になってしまったような兄の感情の名前をやっぱり僕はまだ知る由もなかった。
(ロンはいつまでも鈍感な子であってほしい)
ALICE+