思い出を懐かしんで涙出来るというのは、ほんとうにもうわたしは大人なんだなあと人ごとのように感じていた。かっちゃんに聞きたいことは山ほどある。どうしてあの時何も言わずに去ってしまったのか。理由はなんだったのか。会わない間の10年間、どんなふうに過ごしていたのか。思い描いていたヒーローに近づいたのか。別れを告げられた時のわたしがどんな気持ちでその後を過ごしていたか知っているのか。胸の内にしまってあったいろんな懐かしさが涙を一緒に込み上げさせる。聞きたいことや話したいことが喉の奥につっかえてしまって、上手いこと息ができなかった。相変わらず驚いたように眉をしかめるかっちゃんがじわりと滲んだ。


「泣くなよ」


相変わらず不器用に頬に伝う熱い雫を拭ったその無骨でおおきな手はやっぱり変わらず熱いまま。お茶子にこんなところ見られたら、「運命やー!」とその可愛らしい瞳を輝かせるに違いないけれど、運命とやらはもう平行線になってしまっただけということで、同じ世界で過ごすだけの権利は与えられていると思うだけでなんとなく満足している。


「まさか、かっちゃんだったとはねえ」
「俺も驚いてんだよ」
「うそだあ」
「んなことより泣かれるとは思ってなかったわ」
「うるさい」


もう泣いてないよ、そういってかっちゃんの胸にパンチをひとつ。避けられるはずなのに受け止めて、アホ、と呆れたように呟く。


「お前変わってねえのな」
「そうかなあ」


他愛もない会話が心地よいのはかっちゃんだからだろう。元恋人だった云々を抜きにして、雄英の時代から彼とは何となく居心地が良かったことも感覚的に思い出す。


「かっちゃんもこっちにきてしばらくは忙しくなるね」
「屁でもねえわ」
「言うと思った」
「……かっちゃん」
「んだよ」


かっちゃん、かっちゃん。話したいことがたくさんあるよ。わたしの生きるところにかっちゃんが来てくれたことがこんなにも色鮮やかで美しくて、それでいてなんだかワクワクするなんて。かっちゃんがヒーローとして活躍する姿は昔っから誰よりもカッコよかった。デクくん程ではないが、わたしもヒーローという存在が好きである。ましてや、かっちゃんの直向きな姿勢を知っているからこそ、近場で活躍を応援できるというのは単純に嬉しい。


「んー、おかえり?」
「なんで疑問形なんだよ」
「わかんないけど」


しかも意味わかんねえ、と言いながらも口もとがすこし緩んでいるところを見ると、ふたりの関係って肩書きに縛られずともこれくらい緩いくらいがいいじゃないかと感じる。これも流れた年月から導き出した意見である。ああやっぱり10年って長い。子どもの頃、はじめてオールマイトの活躍を見たときのように、心の底から湧き上がるワクワクを抑えられないのと同じように、今はただかっちゃんの活躍を間近で見られるのが楽しみで仕方ない。かっちゃんと同じようにわたしも口もとが自然と緩んでいて、なんら変わりのなかった生活がじわじわと滲んで極彩色に染まってゆくような感じがした。


滲みきったら物語 171223

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