様々な人種と文化が入り乱れ錯綜する街 −− リトルアジア
一見文化が織り交ざり華やかに見える通りでも、一歩裏に入れば闇市、人身売買、裏取引が行われる治外法権の地区。
人が目の前で攫われても、銃声が聞こえても、それが日常茶飯事ですと言わんばかりの顔で過ごす人々が蔓延る地区で、私はうめちゃんと束の間の休日を過ごしていた。

お互いの家柄のこともあり2人で楽しむというわけにもいかず、うめちゃんの家の男の人達5人に囲まれながらだけど。


「喉乾かない?」
『乾いたかなぁ。薬草ジュースは飲みたくないけど』
「薬草は選択肢になかった。いつものとこのミルクティーでいい?」
『いいよ。ってか、もうそんなとこまで歩いてたんだね』


私達のお気に入りのミルクティーを販売している屋台へ、うめちゃんの家の人の1人がミルクティーを買いに行かされているのを近くにあるベンチで座りながら眺める。
買いに行かされているのは最近入った人かな。
前にうめちゃんの家へ行った際には見かけなかった気がする。


『彼、最近入ってきた人?』
「あぁ、あいつ。最近父さんが拾ってきたの」
『へぇ、珍しいね。龍一郎おじ様が拾ってくるの』
「単なる気まぐれじゃない?いつまで持ちこたえるかも分からないし」


そもそも名前を覚える気にならない。と興味なさそうに言う彼女のことなんて知りもしない彼に同情する。
必死に媚びへつらっても、うめちゃん自身が興味ないなら今後の出世は期待できないということだろう。
そんな冷めた会話がされているとは知らず、屋台からミルクティーを買ってきてくれた彼にお礼を言う。

お気に入りのミルクティーを1口飲めば、タイ特有の甘さの強い味に日ごろの疲れも飛んでいくような気がした。


「どう?家出して、家業じゃない仕事してるの」
『どうって言われてもなぁ』
「表情見る分には充実してそう」
『あー、楽しいよ。楽しい。すごく世界が広くて、自分が生きてきた世界が狭いんだなって感じる。今の生活が眩しい』
「なるほどね。これは劉さんも心配になるわ」
『そんなに心配しなくてもいいと思うんだけどね』
「それ、自分の表情を客観的に見てから言ったほうがいいよ。今の名前は確実に前と違う」


私、うめちゃんとたぁくんは世間一般的に言わせれば小さい頃からの付き合いー所謂幼馴染といわれるものであるが、私達には幼馴染という言葉以上に深い繋がりと絆がある。
その人達に心配されるということは、私は前とは違うんだろう。
"普通"に感化されて変わってきていることに自分でも何となく気付いてはいたけど、付き合いの長い友達にまで言われると痛い。

私の中の何かが軋んで痛いと叫んでいたけど、そっと笑い返す。うめちゃんはそれ以上何も言わなかった。


「そういえばさ、最近また本家の方が騒がしいんだよね」
『本家が騒がしいのはいつものことでしょ』
「そりゃ、いっつも嫌味が飛び交ってるけど。あの白スーツ野郎が入ってきてから雰囲気が違うというか。父さんも神経尖らせること増えたし」
『白スーツ野郎って…そのまますぎない?』
「白スーツ野郎で十分でしょ。名前すら呼びたくない。それに、この前迎えに来てた人の中で雨宮っぽいの見たから余計嫌」


世間話をするように変えられた話題は、私達が生きてきた世界の中では普通に通じるものだった。でも、その中に混じる異質なものに引っかかりを覚える。


『あまみや?』


喉越しの爪のテリトリー




聞いたことのない苗字に首を傾げると、うめちゃんが立っている1人に視線を投げた。視線を向けられたその人が一礼をして差し出してきた茶封筒と、持っていたミルクティーを交換する。茶封筒の中には3つにクリッピングされた少し厚めの書類と盗撮されたであろう写真が数枚。
うめちゃんをチラッと見るも、続きを読むように催促されたので再び書類に目線を向ける。
あまみやとは、雨宮と書くらしい。3人兄弟で両親とは死別。そこには彼等の過去や現在までの動向が記されていた。


『このことを龍一郎おじ様は?』
「知ってたとしても、父さんはまどろっこしいことは嫌いだから何もしないでしょ。後は、大庭に調べさせたから素性くらいは知ってる感じ」
『ふぅん。一番上のお兄さんが何を考えてるかくらいは想像がつくけど』
「どうするの?」
『上園だって恨まれることぐらい分かってるでしょ。自分で蒔いた種なんだから、自分で処理させる。それで喰われてしまうのなら因果応報ってやつでしょ』


ベンチから立ち上がり茶封筒に書類と一枚だけ抜いた写真以外を戻し、屋台の近くで物を燃やしている一斗缶の中に投げ入れた。
じわりと紙が焼けていくのを見届けてから座っていたベンチへ戻り、残りのミルクティーが入ったカップを受け取って喉を潤す。


『好きにやらせてあげればいいし、それに』
「それに?」
『この人、うちの店に最近よく来るんだけど』


一枚だけ抜いた写真をうめちゃんに見せると、先程と同じように嫌な顔をして写真を一瞥した。
AMERIに来てオーナーと話し込みながらお酒を飲んいる姿を見かけていたけど、まさかこんな場所で彼の素性を一方的に知ることになるなんて思ってもみなかった。


『この前ナンパされちゃったんだよね、あまみやひろと』
「はぁ!?」


ギョッとしたうめちゃんからの追及を右から左に受け流す。
ナンパというには語弊があるけど、それに近いことがあったのは間違いないんだし言い直すのも面倒なのでこのままでいいかな。


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うめちゃん
本名:克也梅琉
克也会会長の娘