私がデビューしたとき、「マシュマロボディ」とか「ふんわり女子」などという言葉はなかった。
その頃、時代を席捲していたのは「ふんわり」よりも短いスカートで足をバーンと出すとか、棒切れなんじゃないかってぐらい細いとか、とにかく甘くてふんわりした女子なんてウケが悪く、ふわっとしてる=ぶりっ子みたいな固定概念があった時代。

そんな時代の中、街中で「モデルに興味ありません?」という言葉に安易に着いていった過去の私よ。
今だから言える、その誘いには乗らないほうがいい。



「いいね、ふんわりした感じ出したいから回ってみてもらえるかな」


こんな炎天下の中、秋号の雑誌の撮影のために薄手の長袖に袖を通して、暑い季節に不釣り合いな色味のスカートを履き、アスファルトからの灼熱を一身に受けながらカメラマンの支持通りその場で一回転。
いい画が撮れたのかデータのチェックし始めたカメラマンを合図に、アシスタントさんが日傘を持ってきてくれて、少し滲み始めた汗をメイクさんに拭われ、スタイリストさんには服の裾を直される。


「名前ちゃん、暑くない?飲み物持ってこようか?」
『少し暑いですけど、大丈夫です!』
「あー、少し汗でメイク浮いてきたね。目閉じて〜」
『はーい』


メイクを直してもらうために目を閉じると、聞こえてくるギャラリーの声。
「あれ、名前じゃん。雑誌の撮影なのかな」「秋号はどこの雑誌に出るんだろう」「でも、本当に憧れる。女子の中の女子って感じ」「私も名前みたいになりたい〜」


憧れてくれる気持ちは凄く嬉しい。
私みたいになりたいと言ってくれた人のことは、全力で頑張れって言いたくなる。
別に上から目線とかではなく、本気で頑張る女の子は凄い。
写真集発売したときの握手会とか、トークイベントとかでファンだと言ってくれる子達の方が、本当に凄いと思う。

だって、私もともと「ふんわり女子」じゃないし。


ふんわり女子のひみつ




過去「モデルに興味ありません?」と声を掛けられ、ほいほい事務所についていき(今思えば事件とか、危ない仕事に巻き込まれなくて良かったと思う)、小さい事務所ではあるけど悪いところじゃなさそうと判断し、安易に「モデルやります!」と言った私に待っていたのは、事務所が提示した女の子になるためのレッスンだった。

もう、この時点でおかしい。

しかも、レッスンの際に提示された女子像が、「@いるだけで癒される系」「Aふんわり」「B抱き心地がいい体形」という、どこぞの少女漫画の中の女子かよと突っ込みたくなる。

そんなレッスンから逃亡してもよかったけど、契約書に家の住所を書いてしまったため逃げるに逃げれなくなった私は、泣く泣くレッスンに励んだ。

トレーナーについてもらっての筋力トレーニング、マネージャーであるタカくんと話し方講座(少しでもふんわり女子からかけ離れると頭を叩いてくる暴君マネージャー)、レッスンが嫌になっても帰る家は実家ではなく事務所が用意してくれた「ふんわり女子部屋」という、もはや洗脳なんじゃないかというレベルのレッスンを乗り越えた私は、何処に出しても恥ずかしくない「ふんわり女子」になっていた。

そして、「ふんわり女子」として少ないながらも雑誌のモデルだったり、CMに起用してもらえる日々を送っている時に転機が訪れた。

流行りが変わったのだ。
今まで好まれていた短いスカートは徐々に丈を伸ばし、原色よりもパステルカラーが人気となり、遂に「ふんわり女子」が注目を集める時代になってしまった。

そこからは、少なかった雑誌のモデルがどーんと増え、写真集だ、エッセイだ、雑誌の連載だ、ゲストでラジオ出演だ、一言でいえばメディアに露出するのが格段に増え、認知度が上がった。

これは不味い。
だって、注目度が上がれば「モデルである名前は、実は作られていた!?」なんて週刊誌にいつ書かれてもおかしくないのだ。
しかも、私が所属してる事務所は大手と違い小さい事務所。
私が注目されてから、少しずつ仕事を広げようとしているらしいけど、大手と比べれば1つのスキャンダルで潰れてもおかしくない。

お酒のおつまみに「エイヒレの炙り」なんて言えない。
もう少し注目が落ち着いてきた時に「意外な素顔」として取り上げてもらうしか、事務所を潰さずに私も生き残るという道が残されていなかった。


「はい、メイク直し終わり」
『(こんな暑いときは、パーっとお肉食べたい。焼肉)ありがとうございます!』


メイクを直してもらい、笑顔でお礼を言う私にタカくんの視線が突き刺さる。
絶対、私がパーっとお肉食べたいって考えたことを見透かしてるよ、あれ。


「名前ちゃんー、同じような感じの伏し目の状態も撮りたいから、もう1回お願いできるかな」
『はーい!』


この撮影終わったら、タカくんにお願いしてみようかな。がっつり焼肉行きたいって。
とりあえずは、生ビールとタン塩で!