みじかいみじかいおはなし
彼はきっと、ずっとひとりだ。
しかしそんな彼を私は目で追ってしまう。
純粋に、惹かれるからだ。
誰かと話していてもどことなく滲む孤独感。大佐にだけ注ぐまなざし。わかっている。彼の心は今もずっと大佐にしか向いていない。でも大佐は……大佐にはそういった感情が感じられなかった。
彼と話したことはある。親衛隊とは普通に接しているようで、ごく普通に“いい上司”という印象を受けた。少しだけ、口元だけ笑うところも見れた。こんな表情もするんだ、と素直に驚いた記憶は今でも鮮明にある。
しかし、彼は常にひとりだった。
どうしてだろう。どこか人を寄せつけない雰囲気のせいなのだろうか。いやでも、それだけではないような気がした。
ふと、モビルスーツデッキのキャットウォークで物思いに耽る彼を見つけた。その背中はやはり孤独だった。
「お疲れさまです」
横から声を掛けた。くるりと振り向いた彼の髪がふわりと揺れ、水晶玉のような瞳が私を捉えた。
「ご苦労。どうした、なにか用か?」
「いえ。少しお話をしたくなって」
「わたしと、か?」
「はい」
驚いたように彼は目をしばたたく。当然だろう。到底世間話をするような仲ではない。隣に並んで手すりに手を置くとデッキ内にずらりと並ぶMSを眺めた。
「好きなんです、彼らが」
「……彼らとは?」
「MSです。自分の手足になってくれる、大事な存在だと思いませんか?」
視線を動かして彼を見つめる。端正な横顔に映える長いまつげが揺れていた。
「わからんこともない」
そう言うとまたこちらを向いた。
「MSがなければわたしもここでこうしてはいなかっただろうからな」
ふっ、と彼の瞳に影がさした。
まただ。そうやって誰も寄せつけないような顔をする。
「大尉は、」
いたたまれなくなって少し声を張り上げた。そのあとの言葉は近くを横切った整備兵の怒鳴り声にかき消されてしまった。
――――どうしたら、孤独じゃなくなりますか?
きっと、伝わらなかったはずなのに。
彼は目を細めて哀しそうな顔をした。
「はあ〜、好きだ好きだって誰かに言われてみたい」
「急に何を言い出すかと思えば。何かあったのか?」
「だって、いつも好きになった相手には振り向いてももらえないし、恋愛するのも馬鹿らしく思えちゃう……」
「……そうなのか」
「うん、そう。だからさー、両想いとか羨ましいなーって」
「私が君を好きだ、と言ったら?」
「……え?」
「ずっと好きだった、好きで好きで仕方が無い、夜も眠れない」
「ちょ、ちょっと待った」
「こういうことではないのか?」
「……う、まあ、そうだけどさ。冗談で言うのはやめてよ……、」
「冗談に聞こえてしまったかな?」
「……ちがっ、たの?」
「もちろん本気さ」
「え、えええ〜!」
「で、君はどうなんだ?」
「そ……それは……、」
その綺麗な色の髪にゆびをとおした。
「そんなに至近距離で見つめないでよ…」
顔と顔が近い。私の首に腕を回して、アンジェロはこちらを見つめる。
「そんなもの、わたしの勝手だろう」
くすりと笑ってやさしくくちびるをよせた。
「……好きよ?」
ピンクの色をした彼のくちびるに向かって呟けば、何も言わせないようになのか、ゆっくりと塞がれる。
「好きだ」
「とっくに知ってる」
そう言ってまたキスをした。
←prev next→