Happy Birthday
「プレゼント、何あげます?」
「女の人にプレゼントなんてあげたことないのでわかりませんよ……何が好きなんでしたっけ?」
「香水とかどうでしょう?いい香りがする女性って好きです」
朝から親衛隊の面々がなにやら話し合っているのを見かけたアンジェロは、声を掛けようとしたがやめた。内容からするに“彼女”のことだろう、と。何より明日は彼女の誕生日なのだから。まだプレゼントを決めていないのか、と言いかけたところで声をかけられ、視線をそちらに送った。
「隊長はリリーに何をあげる予定なんです?」
振り向いたキュアロンが笑顔で言う。彼らはテーブルにトレンド物が掲載されている雑誌を広げて、彼女に送るプレゼントを考えているようだ。しかし彼女は流行りに疎いぞ、と内心呟く。いつも側にいる身としては、彼女はきっと何をもらっても喜んでくれると思うが……。
「なぜおまえたちに教えなければならんのだ」
「いいじゃないですか〜悩んじゃってるんですよ、僕たち」
「リリーは何をプレゼントされても喜ぶ奴だ。おまえたちが良いと思ったものを贈ればいいだろう?」
アンジェロの言葉を受けて顎に手を添えてうーんと唸ったキュアロンが勢いよくセルジの方を向く。
「セルジ少尉は彼女がいるらしいが……何を贈った?」
「はっ、はい!?」
唐突に話を振られて動揺した彼を尻目に、ゼクスト少尉が「またそれ……」とぼやいた。また、ということは以前にも同じ質問をしたのか……。ざわざわと騒がしい執務室をアンジェロは溜息をつきながらあとにした。
PM23:56。
足音を立てないようにゆっくりと歩みを進めて到着したのは彼女の部屋の前。一応サプライズのつもりで日付が変わったら驚かせてやろうと思ったのだった。だがしかし、当の本人が起きているかどうかが問題だった。個室は基本防音になっているため外に音が漏れることはないにしても、静かすぎる。昼間のうちに少し夜ふかしするようになんとなく伝えたつもりなのだが、伝わっていなかったのだろうか。
あと1分。付き合い始めてから何度目かの誕生日だが、毎回緊張しているような気がする。
時計が24:00を指し、日付が変わった。2回ほどノックをして部屋のロックを解除する。中へ足を踏み入れると、すぐ目の前にアカリはいた。
「アンジェロ……」
「……誕生日、だろう?おめでとう」
真っ先にそれを伝えると、嬉しそうな顔をした彼女が頬を染める。
「ありがとう!」
満面の笑みでそう言われたので思わず釣られて口元が緩んだ。そして持ってきたプレゼントを渡す。なんだかんだいいながら何をあげればいいのかものすごく悩んだため、結局自分とお揃いの香水を贈ることにしたのだった。
「ありがとう……!開けていい?」
「ああ」
赤いリボンを解いて小さな白い箱を開けると、なかには瓶に入った香水が入っている。わたしのお気に入りの、薔薇の香りのものだ。
「香水?」
「わたしと同じものだ。大切にしろよ」
「もちろん!」
彼女は大事そうに胸に箱を抱えて、瓶を割らないようにとやさしく机の上に置いた。
「……じゃあお礼にちゅーしてあげるね」
そう言うとアンジェロの前に立ち、首に腕を回す。背伸びしてもアンジェロの顔には届かないため、少し屈んでやると嬉しそうにまた頬を赤く染めた。ちゅっ、と音を残して離れたくちびるが想像以上に甘くてとろけてしまいそうだと思った。
「……おまえが生まれてきてくれたこと、感謝するよ」
柄にもない台詞を並べている自分がどこか恥ずかしくて、顔がなんとなく熱くなる。彼女の腰に手を添えて、もう一度顔を近づけると磁石のように自然と引き合う。今度は長く、長く触れたままで、時折角度を変えてみせたりもした。
「……今日はね、アンジェロの好きにしてください」
離れたくちびるの隙間から彼女は言葉を漏らす。そういうことを言われると、制御できなくなってしまうから恐ろしい。
「……本当にいいのか?」
「……うん。このままベッドに連れてってくれても……今日は怒ったりしないよ」
ふふ、と彼女は笑う。そういえば先日、執務室でキスを交わした後抱き抱えて彼女を運んで、そのままベッドに押し倒したら怒られたのを思い出した。あのときはきっと、彼女は全くそのつもりじゃなかったのだろうと思うと少し申し訳なくなった。
「ならば……本当にそうさせてもらうが、いいな?」
こくりと頷いた彼女の首に手を添えて、詰襟のホックを外した。くすぐったそうに身をよじったその首筋にキスを落とすと、今度こそ所謂“お姫様抱っこ”でベッドへと運んだ。
「……やさしくしてよ?」
「当たり前だろう」
そう言ってアンジェロはひとつずつボタンに手をかけていった。
Happy Birthday
一年に一度の特別な日。