星を灯すのは君の役目



※マクギリス←ヒロイン←石動


話を耳にしたことは、あった。
しかし聞いても、聞こえないふりをして、知らないふりをして通ってきた。けど、それはやはり真実だった。私は声を殺しながら泣く。バレないように、誰にも、泣いてるなんて気づかれぬように。

「……どうか、致しましたか」

その筈が、いつも傍にいる彼にはどうしてもバレてしまうようだ。振り向いて涙に濡れた目のまま彼を見つめると、当人は驚いたように優しげな垂れ目を大きく見開いて、しかしすぐにいつもの表情に戻した。

「リリー……、さん、」

困惑したように一歩、こちらへ歩みを進めながら、どうするべきかと戸惑ったような顔で言葉を紡ぐ。
そんな彼に私は駆け寄ると、勢いに任せて抱きついた。

「……石動、」

「……っ、はい」

彼が息を呑むのがわかる。しかし、彼の鼓動の早さがどのくらいなのかを確かめることは叶わない。そんな中、私は告げた。

「……私を、抱いてほしいの」



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真っ白いシーツの上に、身体を打ち付けないようにゆっくりと私は押し倒される。
ギャラルホルンの制服のボタンに手をかけつつ、彼はくちづけを落とす。涙に濡れた私の顔を一瞥してから口を引き結んで、柔らかなくちびるを襟元へ吸い寄せた。
ひとつ、ボタンが外され、制服の上着を剥がされる。中のシャツが覗いたところで、彼の大きな手のひらは私の胸元へと伸びた。

「ん、」

服の上からでも十分に感じるくらい、やさしい手つきで胸をなぞる。程よい大きさの膨らみは、彼の手にすっぽり収まってしまった。
その間もくちづけは止まず、舌が割り込んでは口内をも犯す。やがて、シャツすらも脱がされ、下着が露になると、ズボンのベルトにも手をかけた。

ああ、脱がされている。

羞恥より先に、幸福感があった。もう涙は止まり、頬の涙の跡も乾き始めた。
目の前の美丈夫は、ほとんど表情を変えないまま、眉間に少しの皺を寄せて、全身に舌を這わす。

「あ、んっ……、」

背中のホックを外され、纏うものが何もなくなった私の胸を撫で回し、蕾を固くしていく。次第に下腹部も熱を持ち、とろとろになっていくのを感じた頃、彼はショーツすら脱がせてしまった。

何も隠すものがないそこに、指が触れて思わず身体が跳ねる。しかし気持ちよくて、石動の顔をあげようと両頬に手を添えてこちらへ向かせる。

「私ね、本当に好きだったのよ、マクギリスのこと」

マクギリス、彼の名を口にした私のくちびるを、許さないと言わんばかりの荒っぽいキスで塞ぐ。こんなに乱暴なキスをするなんて知らなかった。
けれど、彼だって、立派な男性だ。

「……ええ、存じ上げています。しかし、今は准将の名は口にしないで頂きたい」

「……石動……、」

「今、あなたは私だけを見てください」

投げかけられた言葉があまりにも真剣で、無意識に目尻から乾いたはずの涙が零れた。

「いす、るぎ、」

ふっ、と一瞬だけ微笑んだ石動が指を動かした。中をかき混ぜられて、突如襲った快感に腰を浮かせた。くちゅ、と聞こえるやらしい水音と、彼の息遣いが耳元で聞こえる。
とめどなくかき混ぜられておかしくなってしまいそう。胸の蕾を甘噛みして、吸って、私のくちびるを吸って、耳を軽く噛んだ。

「あ、あ、いす、いするぎ、んっ、」

開かれた脚の間に舌を這わせて、敏感なところをひたすら攻めていく。声にならない声を絞り出すようにして、苦しくて必死に彼の服の裾を握った。

一度目に果てたとき、何が何だかわからないくらい幸せで、けれども何かが足りなくて、夢中で彼の前髪をかきあげて笑った。そんな彼を見つめると、愛しい。

「ね、あなたが欲しいのよ、石動……」

「……しかし、」

「私は、あなたに抱いて欲しかったの、しっかりと、最後まで」

額にたくさんの汗をかいているようだった。
我慢するくらいならば、吐き出してほしい。

「いれて?」

そう言うと、石動はほんの少し戸惑いながらも制服のズボンだけを脱ぎ出す。どうせならお互い全部脱いでしまいたいのに、彼は脱いでくれなさそうだから、と、私は手を伸ばして上着のボタンと、中のシャツのボタンを丁寧に外す。その間に困ったようにこちらを見る石動に笑いかけて、「こんなに美しいのに、見せてくれないなんてね」と冗談ぽく言ってみせる。

「……何故、」

泣きそうな顔で笑う彼の両頬を包み込んで呟く。それすらも可愛らしく見えてくるあたり、私はこの人のことを愛しい。

「愛しいの、あなたが」

石動がまたキスをする。今回は、くちびるとくちびるが触れ合うだけの軽いキス。ちゅっ、と音がして、もう一度目と目を合わせると彼はやさしく私の髪を撫でた。

「そのように言われれば、私は誤解をしてしまいます、」

「誤解してくれていいわ、だって本当のこと」

「それならば、私は本当に愚か者だ、」

「それでも好きよ、石動」

「……好き、ですか」

「ええ。好き」

抱きしめられた彼の背中に腕を回し、首に髪が触れるくすぐったさを覚えながら、脚を開かれ、中に彼が入ってくる感触を感じた。首元や耳にキスをされながら彼の頬にキスをし返し、ずっしりとそれが中に入りきるのを待って再び話し出す。

「マクギリスのことだって、ずっと、本当の恋みたいに追いかけていたけれど、何となく叶わない気はしていたのよ、初めからね。でも理性ってそんな簡単なものじゃないから、私も煮え切らなかったのよ。だけどある日それが真実だとわかって、ああ、やっぱりそうだったの、って、納得したんだけれど、でも心は悲しかったわ。だからバレないように泣いていたつもりだったのに、石動、あなたはいつも私のことを見ているのね」

身体の奥が熱い。
大きな熱が、私の中で疼いている。

石動は何も言わない。

「けれど結局、いつも傍にいてくれるのはあなただし、たくさん助けられているから、あなたのことだってとても好きで……っ、」

彼が中で動く。
擦れる感覚が快感を呼んで思わず声を上げて喘ぐしかなかった。今の私には、抵抗する術も理由もない。

「いするぎ、もっと、もっとちょうだい、あなたを、あ、っ、」

思っていたより激しいそれに、意識が遠のく。無我夢中で必死に彼にしがみついて、名前を呼んで。
なんだか涙が溢れてきて、石動の顔がよく見えない。見たいのに、見えなくて、それを知ってか知らずか彼は目を合わせず胸に舌を這わせる。ぞくっとした快感がまた襲い、一気に昇りつめて一緒に果てた。
それを何度か繰り返し、お互い満足のいくまで何度も何度も求めあった。




疲れ果てて寝転ぶ私の髪を、やさしく指ですく彼の手は、ほんの少し震えていた。
涙が止まらなかった。目の横を伝ってシーツを濡らすそれが、なぜ止まらないのかわからない。ぐちゃぐちゃになった心は、どうしたら元に戻るのだろう。

「あなたに抱かれるなんてこんな幸福、もうきっとないのね」

石動は先程から言葉を発してくれなくなった。
ただこちらを見下ろして、やさしく髪を撫でてくれるだけ。その顔がどんな色をしているのかは涙で見えないけれど。

「……マクギリスのことを追いかけていたのに、今はもう石動のことで頭がいっぱいって、私、可笑しいわよね、こんなの、人として間違ってるって、そう思う」

「でも、」言葉を続けようとすると、そのくちびるは塞がれてしまう。そしてそこから、甘いキスへと化ける。なんて人だ。自分は最低だって思っているはずが、そんなふうにされたら……。

「……私はもうずっと前からあなたの事が好きでした。しかし、あなたが見ているのは准将だとわかって、諦めるつもりでした。例え、准将にアルミリア様が居たとしても、あなたの気持ちを私は、」

「無理はしないで、石動。ありがとう。ほんとうに、ありがとう」

「……やめてください。それを知っていてあなたを抱いたのです、己の気持ちをぶつけたいが為にこんな真似を」

「そんな事言わないで。抱いてと言ったのは私の方なのだから。でもね、……とても気持ちよかった。石動は上手なのね」

「な、何を……、お世辞でしたらやめて頂けませんか」

「お世辞ではないわ。嘘は言わないの、私」

やっと涙が止まってきたようだ。
自分の身体に残る彼の感触に、また下腹部が熱を持っていく。忘れられないくらい、とてもよかったなんて。恥ずかしさが勝って口にはできなかった。
彼のやさしさが伝わる指先の動き。繋がったときの不思議な安心感。相性がいいとは、こういうことなのかもしれない、と。

「馬鹿ね……、もっと早くに気づけていればよかった」

目尻の涙をやさしく拭った石動の手のひらに手のひらを重ねた。大きくて、温かくて。
まだ互いに何も纏っていない、薄暗い空間の中。
やっと見えた、困惑した顔でこちらを覗き込んだ石動の目に目を合わせて笑ってみせる。

「もう大丈夫。私、マクギリスのことは忘れるわ」

「……リリーさん、」

「だって、目の前にこんなにいい男がいるのに。どうして今まで気づかなかったのかしら……」

手を離して彼の首に腕を回そうとゆっくりと上半身を起こした。掛けてくれていたシーツはズレ落ちて、また肌が露になる。恥ずかしさはもうない。

「石動、」

「はい」

「……本当に私なんかでよかった?」

「……男に二言はありません。愛しいのはあなた一人なのです」

「ならもう一度、あなたを私にちょうだい?」

大きく目を見開いて、彼はこちらを見据える。首に回した腕は、彼の輪郭をなぞるように耳を撫でて髪を撫でて、そしてまた頬に添えてキスをする。
そんな私に応えるように熱い舌を差し込んで口内を犯しながら、再び首や鎖骨、肩や腕を通ってゆっくりと身体中を触っていく。まだ引ききらない熱は湧き上がり、気持ちよくなっていくのにさほど時間はいらなかった。





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