初夜

まさかこうなるなんて、予想してもいなかった。
いや、いつかはなると思っていたけれど。今日だなんて。
朝駅の前で落ち合って、彼の運転で普通にデートして、ふたりでディナーを食べて、いつも通り帰るものだと思っていたのに。こんなに帰りたくなくなって、お互い手を離せなくて。
気づけば彼の家にいた。こんなことになるなら、いろいろ準備しておいたのにと思う。心の準備も含めて、だ。

そんな私の心情を知ってか知らずか、ミュラーは私をシーツの上にゆっくり押し倒して、熱のこもった視線を私に向けている。そしてやさしく、キスを落とす。

「……ナイトハルト、」

「……どうかした?」

彼の大きな手のひらがぎこちない手つきで髪を撫でる。

「あの、やっぱり……、」

今夜はやめにしませんか、と言葉を紡ぐ前にミュラーがくちびるを塞ぐ。普段は考えられない少し強引なミュラーに戸惑いながらも、私は素直に受け入れてしまう。本当は求めているのかもしれない。

「大丈夫、大丈夫だ」

やさしい声でそんなふうに言われてはどうしようもない。その声が好きなのだから。
熱くなっていく身体に自覚はあった。くちびるを割って入った舌の熱に酔いながら、苦しくなりながらも夢中で彼の動きについていく。
しばらくするとくちづけは首筋におりて、彼の指は私の服を丁寧に脱がしていく。そして下着の上から胸に触れて、やさしく、やさしく撫でるように揉む。

「……っ、あ、んん、」

触れたところが熱くて、キスの合間にしか許されない呼吸が苦しくて、変な声が出てしまう。やがて下着も剥ぎ取られ、彼は直接胸に、蕾に触れた。
キスが止んだと思うと、そのくちびるは胸元に移る。ちゅ、ちゅ、と音を立てながら蕾を刺激したり、やさしく歯を立ててみたり、私が何をされると気持ちいいのか、見透かされているような錯覚に陥る。

「や、な、ナイトハルト……っ」

「本当はここがいいの、知っているよ」

胸に触れていたはずのミュラーの指が、気がつけば腿をなぞって下着の上から敏感なそれに触れていた。焦らすように触れるので思わず「いや……!」と口にすると、彼は意外そうな顔をして一瞬止まった。が、すぐに下着も脱がせ、直接そこに触れていた。蜜はもう、たっぷり溢れていた。

「あ、ん、ああっ!」

熱い舌がなぞったかと思うと、ぞくりとした感覚がした。気持ちいいからやめてほしいだなんて。我儘なお願いかもしれない。
突起を舌で転がし、やがて指が侵入してくるのがわかると、抑えようと我慢していた声も抑えられなくなる。だめだ、おかしくなってしまう。

「ナイトハルト、やだ、やめ、あっ」

「やめないさ」

ぐちゅ、ぐちゅ、とやらしい音が部屋に響く。それに反応して、さらに私の気持ちも高揚していく。彼の指でこんなに感じてしまうなんて。やがて動きが早まって、一度私は達した。

苦しくて肩で息をしながら、生理的な涙が溢れた目でミュラーを見つめると、彼の顔も心なしか赤く火照っていて、思わず首に腕を回して私からキスをした。
熱い、熱い。早く彼が欲しい。なぜかそう思った。

やがてゆっくりと、彼が中に入ってくる。痛い。そう思って顔が歪んだらしく、ミュラーがやわらかく笑った。

「大丈夫、力を抜いて」

耳元で言うのはずるいと思った。
吐息がくすぐったくて、どうやら反応してしまったらしい。「……っ、」とミュラーが苦しそうな、声にならない声を出した。それが少し可愛く思えた途端、彼が動き始めた。

「あっ、あっ、あっ……!」

動きに合わせて漏れる声が恥ずかしい。少しずつ激しくなり、耐えられなくなって目を瞑る。音と、闇が支配する世界に、最高に幸せな感覚と、気持ちの良い感覚が襲ってくる。どうしよう。

「アンネ、アンネ……!」

愛おしそうに名前を呼んでくれて、キスを何度もくれて。

「好きだよ、好きだ、す、き、」

彼は三度目を言いかけて、ふたりして昇りつめた。
身体が熱い。
目を開けると、幸せそうに笑うミュラーがいた。


***


結局あのあと繋がったまま何度か一緒に果てて、満足のいくまで彼に抱かれた。

彼の家でシャワーを借りてから部屋に戻ると、なんだか恥ずかしくなって顔を隠したくなった。見られたくないものもみんな見られてしまった。

そんな私を見て、愛おしそうに笑って、そして抱きしめて、ミュラーは何度でも言葉にしてくれる。

「愛しているから、君を」




a love potion