「ここで働かせてください!!!!」
「……………」
「ここで働きたいんです!!!」
静まりかえる部屋に、機会の音。
何でフルシカトなんだ、この男は。
目の前にいる、隈の激しい男。竜崎さん。因みに視線がぶつかったことは未だかつてない。果たして私の言葉はこいつに届いているのか。せめて、こっちくらい見やがれ。むかついたので、すぽん、と竜崎さんのちゅっぱちゃぷすを引き抜いてやる。
「…………」
私の手元を睨んでくるけど気にしない、此処で引いたら負けだ。ほんとはちょっと、怖いけど。
「ここで働きたいんです!!」
「さっきから言い続けている、じぶりみたいな台詞はやめてください、聞き飽きました」
あ、喋った。本当に飽き飽きした顔で、そっぽを向いている。
「そんなこと言われても、この本部で働きたいのは事実なんです!」
またもやじろり、とちゅっぱちゃぷすを見てくる竜崎さん。周りにいる他の刑事さんたちからも、哀れむような視線を感じる。だが引かないぞ、私は。執念深いんだから。
彼の暇そうな左手がジーンズのポケット
に伸びる。あ、新しいちゅっぱちゃぷす。なんてやつだ。私のこの手にある竜崎さんの食べかけ、どうしたらいいんだよ。
「先程も言いましたが、この捜査は女性には危険です」
世間一般で言う、流し目。見ている先は、窓の外。
「女だから雇わないんですか」
「まあ、そうですね、危ないので」
「危なくたっていいんです!」
「…もふこちゃん、本当に危険だとぼくも思う」
「そうでしょ?でも松田さんはやりたかった、私もそれと同じです、同じ覚悟なんです」
「むぐ」
「そういうことです!」
びしっ、と竜崎さんに松田さんを指差してみせると、溜息を吐かれた。
「そんなに、入りたいんですか」
まだ目は合わない。
「勿論です」
「ではご自由にどうぞ」
「え、本当ですか」
そんなにあっさりと。良いのかなと思ってしまう程あっさりと許可された。
少しだけ、“ご自由にどうぞ”という微妙な返答が突っかかりはするけど、捜査本部に入れるんなら気にしない。でも、目は合わない。
「あああありがとうございます!!」
やった!と喜びながら、竜崎さんのちゅっぱちゃぷすをごろごろしている口に、さっきのちゅっぱちゃぷすをぶっ刺してやった。
「痛いれすよ」
「すみません嬉しくて!」
「意味が分かりません」
「やりましたよ松田さん!!」
「良かったね。でも、無理しないでね」
少し心配そうな先輩こと松田さんに、はあいと生返事に近い言葉を返して、竜崎さんの隣の空いている椅子に腰を下ろす。
「やるからには、全力でお願いします」
前を向いてぽつり、そう言った竜崎に身体ごと向き直る。
「もちろんですよ!どうぞ、こき使ってください!」
ぐっと両手ガッツポーズ。
「では、もふさん。ワタリにこれを渡してきてもらえますか」
はい、と答えると手渡される書類。私にはよく分からない文字の羅列しか書かれていない。きっとワタリさんには分かるのだろうなとか考えながら、ソファから立ち上がる。
立ち上る。
はずだった。
瞬間、バランスを崩す。
あ、という反射的に出た声が耳に届く。
体勢は立て直せることもなく、ぐらりと傾き、隣の竜崎さんの上にダイブしてから床に墜落。なにこれ、痛いやら恥ずかしいやらでなんか泣けてきた。
「…………」
「…………」
無言の竜崎さんに手を引かれ、立ち上がる。きっとひどく呆れた顔をしてるんだろう、いやその前に恥ずかしくて彼の顔なんて見てられない。なんて思ってるそばから、少しだけ気になる竜崎さんの表情。ちらりと目線だけ上げてみる。
初めて目があった。
合ってしまった。
びびっと音がするくらい、強い目線。
ああ、何もこんな時じゃなくても、いいじゃない。そう思いながら、恥ずかしさで目を反らしたのは私の方だった。
その後、竜崎さんにも周りの先輩刑事さんたちにも、空回りをしないようにと厳重に注意をされた。
別に、浮かれてコケた訳じゃないから、そんなこと言われなくたって平気なのに。
何はともあれ、キラ対策本部の一員になれた事が嬉しい。けど、実は、竜崎さんと目が合ったのが嬉しい。そんな一日だった。
れいざーびーむで、やきつくせ!
(思ったより華奢ですね)
(…それって、せくはらって言うんですかね)
20120530
からまわり、失態