はた、と時計を見遣れば丁度お昼休憩突入タイム。
それは、目的の資料を手に入れた瞬間のことだったので、あとは執務室に帰ることだけを考えて足を進めた。


勢いよく執務室に飛び込めば、いつものデスクに座っている夕神検事。
この姿を見るのは今日で四日目だが、私にとってはすっかりお馴染みの光景だ。


「夕神検事!お昼いきましょ!」

「…その前にやることがあるんじゃねェのかい」

私の持っている資料を寄越せというふうに、ちょいちょいと手を動かしている。どうやら、直ぐにこれに取り掛かろうとしているらしい。
しかしこの資料の考察を行えば、余裕でお昼休憩はパアになってしまうだろうという私の予測は恐らく間違っていない。

それならば、と歩みを進め、資料を差し出す手に力を込めた。それを掴んで受け取ろうした彼の手は一瞬止まって、それから露骨に怪訝な顔をされた。

「もふ、なんの真似だァ?」

「先にお昼にしましょうよ!」

私がそう言っても緩まない彼の手。
二人の間で停止したファイル。

「…これを終わらせなきゃァ、あのおっさんに責められちまうだろォが」
おっさんとは誰のことなのか、一瞬考えたが、きっと刑事さんのうちの誰かだろう。

「そうですね…でも、お昼休憩取らなきゃ、御剣局長に叱られちゃいますよ!」

「………」

夕神検事はモチロン正義感が強いが、それ以上に局長に弱いんだ。
私が想像した通り、ただでさえ不機嫌そうな彼の顔が、苦虫を噛み潰したかのように歪んだ。

勝利を確信して、にっこりと笑えば、さらに顔を歪める夕神検事。
渋々、という感じで書類から手を引いたので、私はすかさずそれをデスクに置いて、検事に向き直った。


「近くに新しいカレー屋さんが出来たんです!そこでどうです?」

とっても美味しそうなんですよ!と畳み掛けるように言うと、彼は不服そうな顔で首を傾げた。


「…そもそもだなァ、お前さんと俺が一緒にメシを食うってェことにギモンを持たせてくンねェか」

「えー!そんな!私、夕神検事と仲良くなろうと思ってるだけなんですけど…」


「する必要なんざァ、ねェンじゃねェのか?」

「か、悲しいことを言ってくれますね…。事務官とは仲良くしたくないってことですか…」


「…………」


なんだか呆れた顔をされた。
検察官と事務官の間にはハッキリとした上下関係があるのは確かなこと。だけれども、これから共に仕事をしていくのだから、少しくらい良くしてくれたっていいのに。と内心で思ったが、これ以上言ってもこちらが虚しくなるだけかもしれない。


「うう、もういいですよ。御剣さ…局長と行きますから…」

「な!お前さん、御剣のダンナと行くつもりか?!」

「まあ、はい。ご飯くらい、たまに行きますよ。仲良いんで…」

局長とは、旧知の仲だ(ちょっとオコガマシイけども、たぶんそうだ)。
だからたまにご飯くらいは、行くんだけど…。
ワナワナしている夕神検事を見ると、なんだかいけないことをしたような気分になってくる。なんで怒ってるんだろう。

しばらく私のことを“信じられない”という顔で見ていた検事さんは、溜息一つついてから、やれやれと呟いた。


「…おいもふ」

「は、はい!」

「ぼさっとしてねェで、さっさと上着取ってきなァ」

「え?」

「この寒い中、スーツ一枚で出掛けるつもりかァ?」

「…え!そ、それは、その、私と一緒に、ご飯を?」

「そういうこった。早くしなァ」

「あ、ありがとうございますちょっと待っててくださいね!!」


私は慌てて執務室をあとにした。
それにしても、夕神検事の思考回路は良く分からない。今の短いやり取りでさえ、彼がどう考えた結果なのかサッパリ分からないけれど、これから分かっていけるようになればいいな、と思うととっても気分が軽くなった。


遠回しのヨロシク・ドーゾ!


「私、ナンって素敵だと思うんです!」
「……そうかい(アホそうな部下ができちまったぜ)」



20150114










心境の正解↓

ユガミ(元囚人と関わらせるのはどうなんだ)→(御剣のダンナに迷惑はかけらんねェ)

 



 


-Suichu Moratorium-