どうもこんにちは、王泥喜法介です!
今日も一日、牙琉センセイの事務所で、おおばたらき!過酷な弁護士のお仕事!
…なんて、弁護士の仕事紹介みたいな変なことを言ってる場合じゃない、もう働き疲れてへとへとだ。まあ、最近はほぼデスクワークなんだけど。でもほら、それってある種の肉体労働だし。今日は、本当に頑張ったしね、オレ。
向かいのデスクに座る先輩に、ちらりと目をやる。
もふもふこ先輩。オレがこの牙琉法律事務所に来る前から此所に勤めていた、今をトキめくパラリーガルだ。
こんなに疲れてヤツれているオレとは対照的に、つやつやと健康的な感じでイキイキとパソコンをいじっている。それはもう、仕事をキチンとやっているのか疑いたくなるくらい。
「あっ、くそう、飛車とられた」
「将棋さしてるんですか!」
センセイが留守だからって、何やってるんですか!と今朝の発声練習以来の大声で言うと、うるさそうな顔をされた。…ダイジョブだオレ。オレは間違ってないんだから。
「だって暇なんだもの」
「じゃあ、オレの仕事、手伝ってくださいよ!」
「やだよーめんどくさーい」
それより将棋!なんて張り切っている。
職務時間中になんて人だ。
…それでも彼女を攻めきれないオレ。甘いなあ、と毎回思うには思うんだけど。
これはオレも牙琉センセイも同じこと。事務所唯一の(と言っても三人しか居ないけど)女の人だからだろうか。二人揃ってアマアマだ。
それでも自分のやるべき仕事は(最低限だけど)こなすから、この事務所で雇われ続けるんだろう。(他の理由も在るかもしれないが)
「もふこ先輩」
「、なに?今、すんごい忙しいんだけど」
がしがしと頭を掻いている。綺麗な髪がぐちゃぐちゃ。(そういうことには無頓着なんだ)そして、それは彼女の焦っているときの仕草だ。これは、オレの力を使って見つけたものじゃない。
「だー!行き詰まり!」
またもや頭を掻いている。俺は立ち上がって、先輩の机の上の1999年型マッキントッシュ(古いし重いし使いづらいことこの上ないパソコンだが、形が好きらしい。可愛いから変えるわけにはいかないんだとか)を覗き込んだ。
「あー、先輩、そこはほら、こいつを…」
「あ、なるほど!ほーすけくん、あったまいい!」
「ど、どうも…」
「ん、仕事終わったの?」
「ああ、まあ、とりあえずは」
「じゃあさ!」
楽しそうな笑顔。
何を言うんだろう。
もふこ先輩の薄く開いた唇から声が出る、と思った瞬間だった。
「こんにちは」と、後ろから聞こえた知らない人の声。
と、タイミングの遅いノック音。
振り返ると、…牙琉センセイ?!
い、いや、違う!!む、むむ紫スーツ…だ!
「あっれ、じゃらじゃら検事じゃん」
「やあ、もふこちゃん」
「っ知り合いですか先輩!」
「うん。牙琉センセイのお兄さんだよ」
「え!」
「いや、逆だよもふこちゃん。ぼくが弟」
「あーそっか。どうでも良いから忘れちゃった!」
星が飛び交いそうな程、お茶目に笑う先輩。相当ヒドイことを言ったと思うんだけど。
ちらりとセンセイのお兄…じゃない弟さんを盗み見る。サワヤカな笑顔をしているが、きっとそれなりのショックを受けていることだろう。
「ああ、それで牙琉検事。何かご用?」
「そうだ、これ。兄貴に渡しといてくれないか」
そう言うとその検事さん(とてもそうとは思えないけど)は、もふこ先輩に、書類が入った封筒のようなものを手渡した。
「はーい受けとりましたー。で、他にご用は?」
にこにことしているもふこ先輩。でも、その笑顔は、プラスチックの様な、営業スマイルの典型例ってくらいアレな笑顔だ。仮にもウチの事務所の受付役なんだから、もう少し自然な笑顔を身に付けてもらいたいなあとも思うんだけど。
「そうだ。もう仕事は終わったのかい?」
「私は、まあ終わりました。ほーすけくんは?」
「えっ。ああ、オ、オレも終わりましたけど…」
「じゃあもふこちゃん、ぼくとディナーを一緒にどうだい?ロシアン料理の良いところを知ってるんだ」
「へえ!でも、私、これからほーすけくんとアツい夜を過ごすつもりなので、今日はやめときますね」
「え?はっ?…ななななななんですって!!!?」
「…君たち、そういうアレなのかい?」
「ご想像にお任せします」
もふこ先輩を見れば、なんて眩しい笑顔。
ぎらぎらという意味で眩しい検事さんも、困ったような降参の表情。
と言うか先輩は何を言っているんだ。
オレと、なに?
ああああ、アツい、、なに?
「じゃー、そゆことで!事務所閉めまーす!」
「え!もう?!良いんですか先輩!」
「うん、先生から鍵は預かってるし」
いやそうじゃないだろ。お客さんが(例えいくら追い払いたい客でも)居るんだから、事務所閉めるのはアレだろ、と内心突っ込みを入れるが、こういう時のもふこ先輩の迅速な対応ったらない。
オレが呆けているうちに、殆どの戸締まりを終えていた。
「はい、じゃ、みんな外に出てくださーい!」
オレも牙琉さんも、もふこ先輩の強制的な号令により、外に追いやられる。
「じゃ、ほーすけくん、行こう」
「や、いや、だって牙琉検事…」
「ああ!牙琉検事か。うーん、この後ひまなの?」
「…まあ、そのようだね」
彼は、バックを持っている上に、さっきもふこ先輩にディナーのお誘いを断られたところからすると、きっと勤務が終わってから此処に立ち寄ったんだろう(なんか可哀想だ)。
「じゃー、しょうがない。私たちに混ぜてあげよっか!」
「…どういうことだい?…だって君たち、」
「じゃあ来ないの?」
「いく」
なんなんだよ、この会話。
それより年上であろう検事さんを、この扱いとは。流石にもふこ先輩は、なんというか、格が違う。
と言うか、彼女を目の前にしたときの牙琉検事の威厳のなさたるや。まるで牙琉センセイを見ているようだ。見た目だけじゃなく、中身も趣味も似ているんだ、きっと。
きみのソフト・パワー
(…先輩、アツい夜って…)
(うん、やたぶき屋)
(なるほどね。サムイ夜に、アツい味噌ラーメンってことか)
(……)
(なに、変な顔してんの、ほーすけくん)
(いえ、なんでも…)
20121025
ソフト・パワーとは、たしか、誘惑とか魅了するちからって意味に近い、経済か法学用語だと思う。わすれた。
あと、やたぶき屋いきたい。醤油派だけども。