怪人研究員のお引っ越し





今日は快晴!
からだも頭も絶好調!
絶好のお仕事日和!

と、行きたいところだったが、私の目の前には荷物の山。
しかも路上。
しかもここは、謂わばゴーストタウン。
嘘でしょ〜、と呟くのも許して欲しい。


とりあえず、何でこんな所にいる羽目になったのか、誰を恨めば良いのかを思い出したい。

ええと、まず最初に、私は今日、引越しだった。
それはいいでしょう仕方ない。お仕事の都合、というやつだ。
しかしだよ、なぜその引越し先がこのゴーストタウンなのか。
その原因は確実に私の上司にある。

"怪人の研究するんでしょ?ならあのゴーストタウン、うってつけだよね。"と、事も無げに言ってのけ、そのまま私の、是非その隣の町で、という要望を聞くこともなく即日で転勤命令・引越しのお手伝いをしてくれたのが、その私の上司だ。

そして次に、何でこんな路上に私の引越し荷物が散乱しているのか。
これは単純に、ゴーストタウンを嫌がった個人業者が、この町に入った瞬間に、"配達はここまでです"と元気に叫んでかえってしまったからだ。
プロとしてダメだろう、と思ったがこの際、こんな嫌がられる町を転勤先にしたあの上司のせいにしてやる。


くそおー!結局全部上司のせいじゃんかー!と大きめな独り言。

そのあとは、もう"仕方がない"の一心で、持てるだけの荷物を持って移動する。
が、ああ、持ちきれない。これはきっと、二回以上往復することになるな、と諦めの溜め息をついてから、置いていく荷物の無事を祈って(たぶん盗るような"人"はこの辺には住んでいだろう。)、その場を後にした。






しばらく歩き回った。

手にした引越し先の住所は、見知らぬ土地ではあまり意味がないことに改めて気付く。
しかも案内とか、番地の書いてある電信柱とか、そういう親切の塊みたいなものは、破壊された町にはほとんどないのだ。
本日何度目かの悪態をつく。

「もうだめだあ〜」

「おい」
「!!」
ぐったりしていたときに、背後から聞こえた声に驚いて振り向くと、知らない人が立っていた。

なんか機械みたい。あ、もしかして。

「か、怪人?」
人なんて住んでいないだろうという先入観とその見た目でそう問えば、めちゃくちゃ眉間に皺をよせられた。こえい。
「違う。・・ヒーローだ」
「ひ、ひーろー・・」
それにしては随分と高圧的・・と思いながら、こんにちはと挨拶をすると、ああ、とよく分からない返事をもらえた。

「それ、運ぶのか」
それ、と言われたもの。目線を追うと、私の荷物のことを言っているらしい。よし、この際だから新居の住所を訊いてみようかな。
「直ぐにでも運びたいんですけど、運び先が分からなくて・・」すかさず住所をメモした紙を見せる。

「・・これは、」
「分かります・・?」
なんだか悩んでいるようなヒーローさんを見ると、面倒なことを訊いてしまったな、と申し訳ない気持ちがしてきた。
が、それは私の杞憂だったらしく、彼ははっきりとした様子でこちらを見た。
「こっちだ」
「あ、はい。あ!」
自分の荷物を持とうと屈んだ瞬間、驚くことに彼がそれら全てを抱えてくれていた。すごい。申し訳ない。

「すみません!あの、良いんですか・・」
「お前が運ぶより早いだろう」
なるほど。一瞬で納得してしまったが、ありがたいものはありがたい。ありがとうございます!と大声でお礼をいうと、なんだか微妙な顔をされた。なんでだろう。







「ここだ」
「お、おお・・」
町の廃墟ぶりを見ながら歩いてきたために、もっとひどい建物だろうと想像したが、思ったよりまともで普通なアパートだった。
そのアパートから隣のヒーローさんに目を移すと、何階かと聞かれたのでとりあえず自室の番号を告げると、またもや微妙そうな顔をされた。疲れちゃったのかな、後でお茶でもご馳走しよう。


「部屋まで運んでくださってありがとうございました!もうすごい助かりましたよ!」
「気にするな」
ヒーローだから当然、ということなのかな。それはとてもかっこいい。私もヒーローだったら一度は言ってみたいな。
「あ、でもなんか、お礼とかさせてください」
「礼?」
「はい、なんだろう・・その辺でお茶でも奢りますよ!」
「この辺に店などないが」
「う、うわー!そうか!うーん・・」
一生懸命頭を捻っていると、無理するなと言われたが、そういうわけにもいかない。
「あわかった!今晩、ご馳走しますよ!この部屋にきてくだされば、私、なんか作るんで!」
まだ今が昼過ぎなのを考えれば、今から荷物整理をして、買い出しをすれば十分に時間の余裕はある。我ながらナイスアイディア!
しかし目の前の機械人間みたいな人は、あまり良い顔をしてなかった。
もしかして、人が作ったものは食べられないとか?いやそもそも、この人は食事ができるのだろうか。ああ、軽率な発言をしてしまったかも、と心配していると、彼は悩み抜いたような顔を長い間してから、もう一人呼んでも良いかと訊いてきた。

「もう一人?いいですよ、大差ないです!」
「わかった、礼を言おう」
「いやいや、お礼をするのはこっちです。じゃ、また夜に!」

別れの挨拶をしてから、私は急いで残りの荷物が待っている場所へと駆けていく。

さあ忙しくなるぞ!




160315


◎夕飯はサイタマだけにさせる訳にはいかない、と考え込むジェノスと彼らのお隣さんになったなんか残念な研究員









 



-Suichu Moratorium-