思い込みがすべてなのです。
○
胸への衝撃で目を覚ました。
何事かと思って瞬時に飛び起きようとしたが、自分の胸にもふこの白い腕が乗っているのを見て、ゆっくり頭をもたげるだけにとどまった。
左には、手足を投げ出すようにして爆睡しているもふこ。その顔を覗き込めば、心なしか笑っている。
「………」
一瞬、なんでこいつの動く気配で起きなかったのか自分を責めたが、念が使えない今の状況では普段より感覚が鈍いのも致し方ないのだろうと自分自身を納得させた。
それから、その細い腕をゆっくり退けて考える。
何故こいつ、もふこは、俺の横でのうのうと寝ているのだろう。
初めて遭った、もう既に昨日のこととなった出来事を思い出した。
フィンクスがあの扉を開けたとき、扉の先から、げっ!という声が微かに聞こえたのを覚えている。
勿論、俺も驚いた。だがそれより、その瞬間にもふこを殺さなかった俺自身に驚いた。
そうでもしていれば、欲しかったあの宝石は俺の手にあっただろうに。
何故だったんだろうと今考えてみれば、こんなやつがあんな場所に居たということ自体に面食らったからなのかもしれない。
ちらりと隣を見遣れば、華奢な肩。ぼさぼさの髪。へらりとした顔が月明かりに照らされている。
恐らく成人はしているのだろうが、あまり大人には見えない雰囲気。それは、寝ている今ならまだ幾分か利発そうに見えた。
こいつと会話をしてもほとんど噛み合わず、何を考えているのか掴めなかった。人間の分析は得意な方だが、もふこの場合はその情報が得られないから、分析にすら至らない。
それほど複雑な精神の持ち主なのか、それともただの馬鹿なのか。
俺をこんな部屋に軟禁させているのだから、無能な奴ではないということは分かる。だからといって、もふこは、こう間近で見ると全くただの女だった。
俺が上半身を起こすと、ベッドが揺れた。
スプリングで、微かに上下するもふこ。
その首に、手を伸ばしてみた。
指先が触れる。
その瞬間に、彼女はくすぐったそうに軽く身じろいだ。
しかし俺が両手で首を絞めようと気管に指を当ててみても、起きる様子はない。
試しに、ぐっと押し込んでみた。
「…う、ぐ、うぇっへへへ」
苦しんだものの、最終的には笑った。
俺が殺気は出していないからといっても、盗賊を名乗る人間として、この反応は失格だろう。というよりか、人として駄目だろう。
念空間のこともあるが殺せるなら殺してしまおうと思って掛けた指だったが、その満面の笑みに気味が悪くなって思わずやめてしまった。
その顔につられて破顔した自分にも複雑な思いを抱き、ベッドサイドにある窓に見える月を眺めてから、もふこを少し反対側に押しやり、自分も毛布を被り直した。
20150125
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-Suichu Moratorium-