満月とヘリコプタ


「ふふ、」

「…………」

「こっちは、…あー、あーあー、なるほど、」

「…………」


「確かにそういう節あるなあ」



「あの」

「ん?なんですか竜崎」

「今、何時だか分かってますか?」

「え、っと、もう十一時か!はや!」

「はい。そして貴女は残業組です」


「そうでした」

「…急いで仕事を終わらせてください私が疲れます」

「ごめんなさい。…でも、これ面白いんですよー」

「そんなことは知りません早く仕事してください」

「えーもう厳しいなあ」

「当たり前です」

「…ほら、これ見てくださいよ」

「忙しいので見られません」

「そんなこと言わずに〜、これなんですけど、って、そんなに睨まないでくださいよ、ちょっとで良いから!はい!」






「…“あなたの付き合ってくださいの言い方診断“…なんですかこれ」

「名前で診断する、いわゆる、しんだんめーかー、です!」


「…中学生ですか」

「いや、これがまた侮れないんですよ!」

「はあ」

「興味無さそうで傷つきます」

「興味を持てと言うんですか」

「はい!!」



「……じゃあ、貴女は何だったんですか」

「私はですねー、“おれのために味噌汁を作ってくれ!“です」


「突っ込みどころ満載ですね」

「そうなんですよ〜。あ、竜崎もやりましょうよ!えーと、下の名前は、…無しで良いですかね」

「…まあ、はい」




「竜崎、と。よし、待ってくださいね」

「はあ」


「あ、何だこれずるいです」

「何でした?」

「“月が綺麗ですね”、です」

「…いいんじゃないですか、どうでも」

「えー、何ですかこれ、夏目漱石ですか?分かりにくい上につまんないです、ずるいー」

「狡くないです」

「いかんせん腑に落ちません」

「たかが機械の気まぐれですから、気にしないで仕事してください」

「冷たいですねえ、竜崎は。…月ねえ、って、あれ、確か、今日ってスーパームーンじゃありませんでした?!」


「ああ、確かそうでしたね」


「……………」




「…なんでしょうか」
「見たいです」
「残業していて尚且つ仕事をなかなかしないような人が、上司に迷惑を掛けてでも見たいということですか」




「…うっうっ、おに…」





「…カーテン上げてください。見終わったら急いで仕事してくださいよ」



「い、良いんですか?!」


「見たくないんですか?」
「見たいです!!!」


「では、急いでください」

「はい勿論!竜崎やっさしーー!!ではーー、いでよスーパームーン!!って、曇ってます!!…ひどい」

「そうでしたか、残念ですね」

「残念そうじゃないです」

「心の底から悔しがっています」

「…何だかなあ」

「取り敢えず、早く仕事を終わらせてください」


「…はいはあい」





「、月が綺麗です」

「え?…曇りじゃないですか」

「はい」




「………ま、さか、さっきの、」



「一瞬、雲から月が出たので見えました」


「…心臓に悪いです」

「何か言いましたか?」


「…いーえ」


「そうですか。ならさっさと仕事を片づけてください」

「そればっかり」

「片付けたら、月を見に行きましょう」


「…曇りですってば。ばかにしてるとしか思えない」

「雲の上では、晴れてます。今日は屋上にヘリがあります」




「…え、それって…」


「早く仕事を終わらせてもらわないと、綺麗な月が見られません」



「ががが頑張りますから!!」




鼻先に吊り下げられた満月



(残業が、私と竜崎の二人で良かった!)

(…何でですか?)

(松田とかいたら、狡いとか何とか、うるさいですもん)





このあとに、月が綺麗ですね、と言ったのかどうか。




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-Suichu Moratorium-