クロロとコンビニ



冬は日が短いな、と思ったけれど、考えてみればもう21時を回っていた。そりゃ暗いはずだ。
お年頃の女性としては恥ずかしいほどの欠伸をしながら今日も疲れたなー!と考えていると、行く手に「100円コーヒー」というなんとも甘い誘惑がぶら下がっていた。


小さく音を立てて開いたドアをくぐれば、生暖かい空気に包まれる。それと同時に入り口近くにあるコーヒーマシンからの、良い匂い。たまらない。
コンビニのコーヒーだけではなんだか物足りないから、今日は贅沢になめらかプリンパフェでも食べようかなあと悩みながらレジに並ぶと、目の前に見知った黒髪。

「………クロロ?」
人間違いでも大丈夫なように小声で呼べば、前に並んでいた人が振り向いた。
「奇遇だな」
やっぱりそうだったか、と思ったが、あまりにも似つかわしくない場所での遭遇に私の頭の中は疑問符だらけ。
「え、え、クロロともあろう人がこんなところで…何を…」
「食べ物くらい買ってきたらどうだと言ったのはお前だろう」

確かに、前にそんなことも言った気がする。だからってこんなコンビニなんかで買わなくても。

「で、何買うの?」
パッと確認したが、クロロは何も持っていない。
「お前は?」
「私は、プリンパフェとコーヒーだけど」
「なら俺もそれを」
前の人が会計を済ませると同時に、クロロがプリンパフェとコーヒーを二つずつ頼んでくれた。



「んー、美味しい!!!クロロごちそうさま」
「ああ」
ちゃっかり奢ってもらっちゃったりなんかして。さすが団長さん。
大の大人が二人してコンビニのイートイン・スペース(しかもカウンター席、窓向き)でプリンパフェを頬張る図はさすがに少しキツい(特にクロロ)気もするが、気にしないのが得策。

「いや、でも実際…コンビニのレジに並んでるなんて俗っぽいクロロが見れたのが、今日一番の収穫かも」
ちらりと隣の様子を窺いながら言えば、わりと睨まれた。本当のことなんだから良いじゃない。

そのまま二人で近況なんかを言い合いながら仲良くパフェを食べ進めていると、いきなり呆れたように笑われた。
「な、なに」
「頬についてる」
クリームでもついたのか。クロロが、ちょいちょいと自分の頬を指差しながら子供かと罵るから、焦ってペーパーナプキンで拭おうとしてもなかなか取れない。
「まだついてるぞ」
「え〜!?もう…どこ?」
半ば苛つきながらクロロに向き直ると、手で器用に取ってくれた。

「ふう、ありがとう」
「そんなところに付けられる人間は、なかなかいないな」
どうやら随分上についていたらしい。クロロが心底可笑しそうに笑うから少し恥ずかしくなって、ちらりと目線を前に戻した。
何の気なしに見たガラスの向こう。
見慣れた影が映った。

「あ」
コンビニの外にいたのは、片手で携帯をこちらに向けて持ったままにやついているシャルだった。明らかにこちらをからかっている雰囲気だ。
隣のクロロも気付いたのか、呆れたような目をして私を見ていた。
「…撮られたな」
「そうっぽいね」
「お前よりシャルの方が子供、か」
「シャルよりは大人って、そんなに嬉しくないかも」
言葉尻に被せるように、私の携帯が震える。
勿論差出人はシャルで、開けてみれば、クロロが私の頬を拭っている場面のベストショット。

クロロも自分の携帯を眺めている。
はっと思ってメールの宛先を見れば、蜘蛛のみんなに一斉送信されていた。
「性質悪…」
「まあ大した害はないだろうがな」
「それもそうだね」

会社の人とかだと最悪だけれど、蜘蛛のみんななら特に面倒でもない。そう思ってもう一度外を見れば、まだ携帯を構えて眩しい笑顔のシャルがいたから、クロロにくっついてピースサインを送ってやった。





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-Suichu Moratorium-