御剣とランチ







「やっほ、みつるぎさん!」
「ム、君か」

お昼休憩に突入してから急いでみつるぎさんの執務室に行けば、いつもの無愛想な顔が私を見て余計に苦い顔になった。ああ、面白い。 

「…君も、昼食くらい自分の職場で取ったらどうだ」
そうそう、毎度の文句だ。
「いやですよ!つまらないんですもん」
それでもって毎度の返し。
事実私の職場はいつも静かで、私みたいにはしゃいでお昼を取るような人間は浮いてしまう。かといって未だに一人で近場のレストランなんかにも入れない私は、毎日決まってお昼ついでに職場から近い、昔ご縁のあったみつるぎさんの所に来て、わいわいと騒いで昼食を取っているのだ。もちろん、歓迎されてないのは知っているが、文句を言わない彼に甘えてしまっている状態だ。

いつもの呆気無い返事を聞いたみつるぎさんは、やはり釈然としない表情。
これで私が、"みつるぎさんの、その無愛想な顔を見るのが楽しみで来てるんですよ"なんて半分真実のことを言ったらどうなるんだろう。
きっと、照れながら良く分からない理由で怒られるんだろうな。

そう考えてから、机にしっかりとへばりついたみつるぎさんの目の前に立って、紙袋を差し出す。
「はいこれ、今日の差し入れです」
そういうと彼は決まって、変な顔をするんだ。はじめはそのしかめっ面みたいな表情を見て、私が何かしでかしてしまったか心配になったけれど、今となっては、これがある種の照れ隠しだと言うことを知ったので、見る度に微笑ましい気分になる。(思い過ごしだったらどうしよう、というのは考えないようにしている)
彼はその顔のまま、すまない、なんていう微妙なお礼をしてから、大人しく紙袋を受け取った。
私も部屋のソファを拝借して、自分の分のサンドイッチも広げることにした。
ついでに、先日みつるぎさんに馬鹿にされるほど薄いアメリカン・コーヒーを詰めた水筒を取り出すと、やはり向こうから笑った気配。

「…ふ、またその白湯を飲んでるのか」
「だからこれは、れっきとしたコーヒーですってば。ひどいなあ、もう」
「そうだったか」
まだ意地の悪そうな半笑いを浮かべているみつるぎさん。なんかもしかして、今日は上機嫌だったりするのか。ちょっと訊いてみようかな、とも思ったが訊いても正直に答えてくれるような人じゃなかったことを思い出して、やめておく。

ちょっとばかり薄めのコーヒーを啜りながら、高級サンドイッチの感想でも聞こうとしたときに、廊下から物音。
そしてノック。

「バンドーホテルです」
怪しげな名前が告げられてから、扉が開いた。なにやら畏まった男の人が立っている。そしてすぐに、自分がマナーのお手本とでも言いたいような所作で華奢なワゴンを押し進めてきた。

ああ、たしかみつるぎさんは、近くのホテルから紅茶を頼んで一人で楽しんでいる、という噂を聞いたことがあった。そうか、これのことなのかと納得。噂のそれを目の当たりにした衝撃もあったが、こんなルーム外サービスは初めてで、意図せずにもまじまじみてしまう。

「こちらは、今朝仕入れました、ゴールドティップスでございます」
「うム」
何やら知らない名詞が聞こえたが、きっと庶民には知る由もない高級茶葉の銘柄かなんかなんだろうな、ときらびやかな缶を見ながら考える。
そんなことをしているうちに、そのマナーブックなホテルマンは手際よくお茶を淹れ、さっさと部屋を後にしてしまった。
なんとなくまだ彼の上品すぎる立ち振舞を見ていたかった気もしたが仕方ない。執務室のテーブルに乗せられたティーセットに目をやる。
綺麗なマリンブルーの茶器。ポットひとつと、カップがふたつ。
ふたつ、

「…ふたつ?」
「………」
「これは、私の、と考えても…?」
「き、君のその、白湯が、あまりにも貧相で、だな…」
信じきれない思いで目の前のしかめ面を見つめると、あっという間に目を逸らされた。
ああもう、自分の行動が迷惑かどうかなんてこととか、私の水筒のアメリカン・コーヒーが不名誉なことなんて、とってもどうでもいいや!






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-Suichu Moratorium-