「よしっ完成!」
アヤコが鏡越しにそう言い、にこりと微笑む。
彼女が手を添えるその少女は短めの髪を簡単にまとめ上げ、頬の色を真似る様にその唇に薄桃色を湛えていた。
その身を包んでいるのは麗水が胸につけているリボンと同じ群青色をベースに作られたマーメイドドレスで、どことなく大人びた印象を覚える。
たった三センチ程のヒールも履きなれないせいか足元がぐらぐらした。
『うわー!マスター!すっごくキレイだよ!』
「そ、そうか…? 自分じゃないみたいで、違和感が…」
アヤコが片づけのためスタイリングルームを出ていったそのタイミングを狙って麗水が膝の上に飛び込んでくる。
『きっと今観客席にいるおじさん達びっくりするだろうなあ』
「おじさんって」
『こんな素敵な人が僕のご主人だって皆に自慢できるんだよね?ふふ、楽しみだなあ』
「も、もう…そういうこと言うなよ、恥ずかしいから…」
『なんで? 本当のことを言ってるだけだよ』
そう言い、麗水は綺羅の膝を飛び下りた。
途端目の前に彼の顔がずいと滑り込んでくる。
いつの間に擬人化を…。
「ねえマスター」
「な…なんでしょうか」
頬を包み込まれた。
コトブキシティで彼とベンチに座ったあの時と同じ光景だ。
「マスターさ、陽葉とか蓋とかが擬人化した時と、僕が擬人化した時とじゃ反応違うよね」
「……そ、そんなことないぞ」
「なに?今の間。…言っとくけど、僕、これでも男なんだからね」
ひんやりとした彼の掌が頬を伝って首筋に落ちる。
その感触に思わずびくりと肩を揺らした。
「いっつもうるさいおじさん達も居ないし、コンテスト始まるまでまだちょっと時間あるし……ねえ、何しよっか…マスター?」
「り、麗水っ…?」
「ふふ…マスター良い匂いする…。なんかね、最初会った時からなんだけど、マスターは人間っぽくないんだよねえ……人間に欲情なんて絶対しないって思ってたけど、マスターは特別」
「よく…っ?! そ、そういう言葉使っちゃいけません!」
「照れてる? あのね、これでも僕、人間の年齢的にはもうえっちなお店とか入れちゃうんだよね」
「マジで?! 衝撃の事実!!!」
「……ね、マスター…イイ、でしょ?」
耳元で囁かれ背中に走ったぞくぞくとした感覚に、思わずきつく目を瞑ったその時だった。
「おうゴラ何してやがんだクソガキ」
ばぁん、と。
激しくドアが開き、ぎらりと紅い目がその向こうで怪しく光った。
「…イイとこだったのに。邪魔しないでよ、おじさん。てかなんでわかったの」
「誰がおじさんだ!本能的な何かを感じたんだよ!案の定だ、貴様うちの綺羅に何してくれとん…じゃ……」
ぴたりと蓋の動きが止まった。
そして。
「うちの子が尊い……!!」
「なんか腐女子みたいなこと言ってるー!!!」
『あっ、コンテストそろそろ始まるよ!いこ、マスター!』
がくんと項垂れた蓋を残し、麗水に手を引かれその場を後にする。
あのままで大丈夫だろうかと心配だったけれど、コンテスト会場から客席を見上げたらど真ん中を陣取っていたので置いてきた後悔は掻き消えたのだった。