衣類やタオルの洗濯を終え、そろそろ隊士たちの様子を見に行こうと廊下に出たところだった。
「あ、咲さん」
山崎さんが駆け寄ってくる。
その様子が犬みたいで、思わず口元が緩んだ。
「山崎さん。どこか行ってらしたんですか?」
「局長の命令でね。拝み屋を探しに行っていたんだ」
…拝み屋さん?
そっと彼の背後に視線を持っていくと、笠を被り、顔面に包帯を巻いた男性と目が合う。両隣にまん丸いサングラスを身に着けた人と、尼のような恰好の人を従えている。
見るからに怪しい風貌だけれど……。
「貴方が噂に聞く、真選組のお手伝いさんですか」
包帯を巻いた彼が包帯の奥でもごもごとそういう。なんというか、とんでもなく喋りづらそうだ。
噂に聞く、ってことはやっぱりそれなりに話題になってしまっているのだろうか。
それはそうだろう、天下の真選組に唯一の弱点が出来てしまったのだから。
「わざわざご足労頂いてすみません。後程お飲み物をお持ちしますのでお待ちくださいね」
客人である以上は持て成さなければ。
彼らにそう言い頭を下げ、台所へと向かう。
お茶の入ったポットと湯飲みを用意して再度部屋に戻ると近藤さんたちは丁度向かい合って拝み屋さんの話を聞いている途中らしかった。
「失礼します。お茶、お持ちしましたよ」
「おお、咲。すまんな」
お礼を言ってくれる近藤さんに笑みを返し、拝み屋さんの前にお茶を差し出す。
その時。
「そこのお嬢さん」
「…?」
真ん中に座っていた、先ほど目が合った包帯の男性に呼び止められた。
手招かれるまま彼の目の前に座る。
「貴方に強力な霊が憑りついていますねぇ」
「なにっ?! では今回の騒動は咲についている霊のせいだというんですか?!」
「まだ断定はできませんなあ。確かめてみましょう」
興奮気味の近藤さんを制すようにそういうと包帯の彼は私に背を向けるよう指示をした。
訳が分からないまま指示通り包帯の彼に背を向ける。次の瞬間。
「失礼しますよっと」
後ろから抱きしめられた。
* * *
思わず立ち上がった。
目の前には笠を被った包帯男、そしてその包帯男に抱きしめられている咲さん。
抱きしめられているというか……男の両手は確実に咲さんの胸部に宛がわれていて。感触を確かめるかのようにその手は緩く握ったり開いたりを繰り返している。
「ちょ、な、何してんですかアンタ!!」
状況が把握できていないのか咲さんはぽかんとしていて、抵抗もせずされるがままだ。
思わずその間に割って入って男から彼女を引きはがす。
俺だってまだ揉んだことないのに!と、言いかけたが飲み込んだ。
「何って除霊ですけど?」
「そんな除霊法聞いたことねえわ!」
どうやらこの行動は真ん中の男の独断だったようで、両端にいる似非中国人みたいな人物と尼のような恰好をした人物は口を開けてぽかんとしている。
「大丈夫ですか、咲さん」
「え、えっと…山崎さん、いま、何が起こったんですか…?」
まだ彼女の脳みそは状況を理解できていないらしく困惑したようにそう言う。
とにかく彼女をこの場から離れさせなければ。
「咲さん、お使いを頼んでいいですか?マヨネーズが少なくなってるので買い足してきてください」
「で…でも、お客様は、」
「いいから!お茶とかは俺がやっとくから!ね、ほら!早く行ってきて!」
その後、俺は話の流れでなぜかボディーブローを決められることになるのだけれど、彼女を逃がしてあげた健闘は称えられて然るべきだと、自分を慰めるのであった。