「カルピスでいいの?」

「はい」

「あったかいやつじゃなくて?」

「気分なんです」



 そういう私をちらりと横目で見た弘樹さんは少し唇を前に出したあとポケットから小銭を取り出してちゃりんちゃりんと自販機へ投入した。ぴ、ぴ、と音が鳴ってボタンに赤色が灯る。その少し軋むボタンをたくましい指が押し込めば、ガコッと激しい音を立ててカルピスが落ちてきた。



「つめた」



 落ちたペットボトルを取り出した弘樹さんはカルピスを私の目の前に持ってきたかと思うと、そのまま流れるように頬に押し付けてきた。痛いほど、というわけではないけどそれでも冷たい衝撃に小さな悲鳴を上げれば、かさついた笑い声をあげながらいじわるに八重歯を見せる。



「もう・・・」

「だってちょうどいいところにまるっとしたほっぺがあったから」

「どうせ丸顔ですよ」

「いいじゃん丸顔。童顔に見えて」

「弘樹さんの方が童顔に見えます」

「俺別に童顔じゃないよ」

「童顔ですよ」

「いやあ、年相応の渋みがありますよ弘樹さんには」

「無いですね、渋みは」

「そう?」



 半笑いで首を傾げる顔を見上げて頷く。「皴とシミはあるけど」といじわるの仕返しのように言葉を投げれば、弘樹さんは最初から決めてたのか迷いなく買った缶コーヒーを取り上げて、にんまりと口角を上げた。もちろん想像通り缶コーヒーは私の冷えた頬に押し付けられて、かわいくないリアクションを見た本人は楽しそうに笑っている。
 むくれながらも本気では怒れない。だって、こんな些細なやりとりが大好きだから。たった数分、それだけの時間に愛を注いでくれる弘樹さんが、大好き。



「さあ戻りましょうね」



 大きな手が私の手を掴んでダウンジャケットのポケットにまとめてねじ込んだ。どことなく慣れた仕草に年の差を感じて、少しの悔しさに体当たりをする。



「随分と手慣れてますこと」

「めちゃくちゃ練習したさ」

「なにそれ」

「だってスマートでいたいでしょ。好きな子の前では」



 思わず口をつぐめば、弘樹さんは勝ったと言わんばかりに盛大に口元をにやけさせた。