ビールを飲みながらやっと俺は違和感の原因を突き止める。賑やかな地元での飲み会のことだった。俺の目の前に座っている丸い目の小柄な子は随分昔手を繋いだりキスをしたり、とにかく初めてを全部交換し合った初めての彼女だった。今は市役所の事務員をしているらしく、真面目な性格は変わらないし武器にもなっている、らしい。そして俺がずっと感じていた違和感の原因はその目の前にいる元カノにあった。数ヶ月前に帰ってきたときより髪が伸びてゆるゆると巻かれていたのだ。そのぐらい世に女として生まれてきた人なら誰だってやることではあるのだろうが、彼女に関しては違うと言い切れる。いや、言い切れてた。だって数ヶ月前、そして更にその前も、もっと前も、ずーっと前も、彼女はそういうことにあんまり興味を示していなかった。少しぐらいは化粧とか身だしなみを整えることはできるだろうけど必要以上にはこだわっていなかった。やってもやらなくても変わらないもんは変わらない、女としてどうなんだというセリフを残すぐらいだからそこまで興味は無かったはず。



「・・・髪、伸ばしてんの」



美容院に行く暇がなくて気づけば伸びていたんだと踏んだ。



「あ、うん。伸ばしてんの」



それはやっぱり意図的なものだったらしい。誰のために、何のために。そんなこと知ったって何にもならないことぐらい分かってるんだけど。



次に会ったときに感じた違和感の原因はすぐに分かった。化粧をしていたからだ。マナー的な化粧じゃなくて、丸く可愛らしく見えるように丁寧に施された化粧。



「・・・化粧してんじゃん」

「よく見てんねー・・・最近始めたの。やっぱしなきゃまずい年齢だしさー」



ははは、と見慣れた顔で笑っているけどなんだか遠く感じる。



「・・・お前、なにそれ」



会う度にひとつひとつ変化していく彼女の耳に知らない穴が開いていた。自分の耳たぶを指差しながらさすがに顔をしかめると彼女は同じようにしかめ返す。



「ピアスぐらい開けるでしょ」

「今更ぁ?」

「自分もがっつり開けてるくせに何言ってんの」



呆れたように呟いて彼女は自分の耳たぶを触った。知らない笑顔がそこにはあった。



「ごめん!遅れた!」

「いいよいいよ、お疲れさーん」

「お疲れー」



飲み会が始まって四十分ほど遅れてきた彼女は違和感が全身になじんでようやく普通に眺められるようになった。時の流れはすごいなとしみじみ感じながら俺の目の前に座る彼女を見る。メニューが横から渡されたときそれは目に入った。左手の薬指。そこには見慣れない指輪が当たり前な顔して居座っていた。



「・・・ちひろ?」

「あっ・・・ん?」

「どうしたの?なんか飲みたいもんでも・・・」

「いや、それ」

「うん?」

「何、お前」

「あ、ああ・・・これね」



小さく揺れるピアス、柔らかく巻かれたロングヘアー、丸さを強調させたアイメイク、潤った唇。俺の隣にいたときには全部無かったそれが今の彼女には全部ある。



「結婚するの」



耳を赤くして照れるところと気ぃ使いの性格だけはあの頃のまま。