私のベッドに寄りかかりながら、最近奮発して買ったわりには小さいテレビのチャンネルを忙しなく変える和彦くんはつまらなさそうにあくびをする。それをベッドの上から眺めていた私もあくびが移って顔面をベッドに押し付けながら年頃の女の子とは思えない声とともにあくびをした。



「何、今の」



わざわざ振り向いて私の顔を見ながら笑う和彦くんのおでこを押さえつける。



「今更」

「相変わらずかわいげねーあくびだよな」



本当に今更すぎるつっこみにおでこを押さえ続けるとさすがにヘドバンで鍛えられた首も支えきれずにそのままベッドに後頭部を突っ込んだ。痛いと言ってるわりにはへらへら笑ってる和彦くんは背が高くてひょろんとしてて声も低くてあんまり喋らなくてライブではベースをかき鳴らして足を振り上げて低い位置にあるマイクに向かって絶叫しているちょっと近寄りがたい感じだけどこうやって私とじゃれあうことが好きだ。そのギャップを知っているのはたぶん私だけだと思うし、そんな一面がとても愛しい。もう五年近く付き合ってるけどこういうところを見るたびに私の顔はだらしなく綻んでいくのが自分でもよーく分かる。現に今だって頬の筋肉がへらぁっと緩んでいるのが鏡を見ないでも分かる。ベッドに後頭部を乗せたままの和彦くんはそんな私の頬を引っ張るとやっぱり笑った。



「なにニヤニヤしてんの、気持ちわりぃ」

「人のことを言える顔かね」

「そこまで気持ち悪くないよ」

「そこの鏡で見てみなさいな」



赤いふちの姿見を指差せば「絶対やだ」と拒否して大きな手で私の目を覆う。目を覆われたところで和彦くんの顔なんてずっと見てきたんだから声を聞くだけでどんな顔をしているかぐらい簡単に分かるのに。



「見えない」

「見なくていい」

「えー」

「見なくていい」



ほんのり温かい手でぐっと目元を押された私ははいはいと適当に降参するような返事をして、でも手は完全に和彦くんの手をはがす作業に移っていた。私の手が動くのを見たのか手に更に力が入る。



「痛い痛い」

「反抗しようとするからこうなるってなんで学習しないかな」

「いやマジ痛いって」

「ん?」

「いやいや・・・いたっ!!」



長い指が目じりの少し先をぎゅっと押す。本当に痛くて大きな手から顔ごと剥がすとニヤニヤじゃなくケタケタと和彦くんは面白そうに笑っていた。力技でねじ伏せられた感がとても気に食わない。仕返しを考えているとふとベッドに小さく広がる髪の一本がきらりと光った。



「・・・和彦くん、白髪発見」

「え、マジ?」

「待って・・・ほっ」



変な掛け声とともに光った髪を一本抜くと「いたっ」と低い声が漏れて、その瞬間顔を歪めたのを見逃さなかった私は少しだけ勝った気持ちになる。痛そうな顔にも優越感を得たけど、それより白髪の存在の方が嬉しかった。十歳近く年の差があれば白髪だって和彦くんの方が先に生えるのだ。本人はショックかも知れないけど私はそれだけ長い月日を一緒に過ごしたんだなということに嬉しくなる。



「ほれ」



穿いていた黒地の短パンの上に抜いた白髪を乗せるとベッドに寄りかかった体勢のままだった和彦くんが起き上がって目を細めた。私の短パンの上には確かにきらりと光る白髪が一本。ショックを受けているのか黙ったまま自分の白髪を手にとってマジマジと見つめる和彦くんがとてもとても面白かった。



「頑張れ、三十一歳」

「・・・うるせえ」



まあ今こうして笑ってるけど私だって近い将来白髪ぐらい生えるんだけどね。そのときにも和彦くんが一緒にいて、ついでに一本見つけてくれると嬉しいけどなあ。私ってちょっと変わってるのかな。白髪をゴミ箱に捨てながら頭をかく和彦くんを笑いながらそう思った。



一本



「頭貸せ。お前にだって一本ぐらい・・・」

「二十代前半の私には無いですぅー!!」

「見せろ!!」

「やなこった!!」




発掘したものです。白髪抜きたい

20170517