「最近のやつ高いな」
「でもそれだけクオリティー高いんじゃないの?」
お互いに財布を開いて小銭を探しながらぼそぼそ呟く。私たちの周りでは無言で日曜の朝にやってるセーラームーンの二番煎じみたいなアニメのガチャガチャをひたすら回すおじさんがいたと思えば近くでは家族連れが両替で大量に出来た百円玉を分け合っている。今人気のゲームのガチャガチャの前には若い女の子が集まっていて、そんなガチャガチャに囲まれたスペースの真ん中にあるベンチにはおじいさんとおばあさんがのんびり座っていた。今日はどんより雨が降りそうな重たい雲が広がっている祝日で、ショッピングモールにはいろんな人間が集まっている。私と滝もそのうちの人間にしっかりと含まれている。
滝と休みが重なったのは随分久しぶりだった。そしてショッピングモールをぐだぐだ二人で歩くのはもっと久しぶりだった。今までは滝の休みにあわせて行動が出来ていたけど、私が新しい仕事を始めてからは休みが重ならないと会うことさえ困難な状況だ。さらに滝も私も最近とてつもなく忙しくて休みが全然重ならなかった。たぶん二ヶ月以上はまともに顔を合わせてなかったと思う。一年は十二ヶ月しかないのにそのうちの二ヶ月も会えないなんてどういうことだ、とイライラで自棄酒に走り出した頃、ようやく休みが重なった。それが今日だ。
「いくら持ってた?」
「タバコ買ったから百円しか残ってない」
「おいおい」
「なまえは?」
「三百円」
二人合わせても一番高いガチャガチャを一回回せるだけの小銭しかなくて、やっぱり高いよね、と呟きながら開いた滝の手に私の三百円を乗せた。二百円のガチャガチャもあるけど私と滝にはものすごく需要がないものばかりだった。それならまだかわいいストラップの方がほしい。ちゃらちゃらと手の中で小銭を鳴らしながら歩く滝と一緒に端から順番にガチャガチャの内容を見ていく。子供向けのキラキラしたものもあれば寿司のストラップもあれば電球のネックレスもあればと種類はとんでもなく豊富だ。人体模型のミニフィギュアには少し惹かれたけど滝の目には留まってなかったようで華麗にスルーされる。ねぇあれにしようよと言ったところでマジかよって顔しか返ってこないことは目に見えてるので私は人体模型のミニフィギュアを通り過ぎて滝の背中を追いかける。
「なんか」
「ん?」
足を止めた滝が私のほうを振り向いた。
「人体模型ぐらいしかないね、なまえの好きそうなやつ」
「え」
見てたの、と続ける前に滝の口から私の好きそうなやつという言葉が出てきたという現実に気づいて思わず口をつぐんでしまった。滝は私が好きそうなものを探してくれてたの、滝は私が好きそうなものを知ってたの。心臓が少しずつ早くなっていく。変に黙ってしまった私を不思議そうな顔で見る滝に慌てて咳払いをしたあと口を開いた。
「見てたの?」
「うん」
「なんで私がああいうの好きだって知ってるの?」
「付き合い長いからねぇ」
のんびり笑いながらそう言った滝にちくりと胸が痛んだ。そうか、そうだよね、たったそれだけの言葉を明るく言うために搾り出す。確かに私と滝の付き合いは長い。お互い毎日が暇だったときから友達だ。そして同じだけ滝への片思いの気持ちとの付き合いも長い。それなのにちょっとした言葉で期待するなんて、会えてない時間が長すぎたからかな。
「そりゃあなまえの好みぐらい熟知してますとも」
「マジで?私いまだに滝の好みわかんないよ。いいちこ好きなことぐらいしかわかんない」
人体模型のガチャガチャに三百円を投下して回す。回す感覚は軽いのにガチャンガチャンと大げさなほど大きな音を立てて出てきたカプセルは真っ黒だった。
「なまえが俺の好みわかんないことも知ってる」
セロハンテープを人差し指の爪で剥ぎながら呟く滝はなんでもないように続けた。
「自分のことってわかんないもんね」
はい、と手渡された人体模型のミニフィギュアを受け取ろうとした体が固まった。ちょっと待てよ。滝って今何言ったの?瞬きを繰り返す滝の目をじっと見つめる。でも読み取れない。たぶん滝の感情を読み取れるほど私の頭が機能してない。
「何その顔」
面白そうに笑って滝はいつまでも受け取らない人体模型のミニフィギュアを私のバッグに突っ込んだあと「腹減った」と言って私の手を握って歩き出した。
惚れられた強み
「ねえ、滝の好みって」
歩きながら滝はやっぱりなんでもないように言う。
「めちゃくちゃ鈍感」
title by 星食
20170521
←