何かと理由をこじつけて開かれる飲み会に呼びつけられるのは、嫌いではなかった。こじつけの理由がいつも最高にくだらなくて面白かったし、毎回誰のチョイスか分からないけど行く店は大体ご飯も美味しいしハイボールもウーロンハイも焼酎も薄くない。集まるメンバーで喫煙か禁煙か部屋も選んであるし、こじつけの理由をつけて開く飲み会にしては小さなとこまで心配りが出来ていていつでも居心地がよかった。でもそれは今日以外の話であって、今日は最低とまではいかなくてもそこそこ居心地が悪い。隣に座ってるのが主役だってことが一番の原因だ。私は好んで主役の隣に座ってるわけじゃない。選ばれて、しまったのだ。



「和彦、今日はお前の日だ!お前の好きなようにしていいぞ!」



 早速ビールでほろ酔いになったかみじょうくんが立ち上がってそう言うと今日の主役、中村くんはえー、と最初は躊躇ってる風に見せかけてたけどすぐに態度を変えて「じゃあさ」とわざわざ立ち上がってみんなが注目してる中ビシッと指を指した。唐揚げを頬張ってる私を。



「みょうじ、隣来て」



 一秒か二秒、ほんとに一瞬の沈黙のあと全員が大きく手を叩いて「ご指名だぞー!!」と冷やかしだして、飲み込んだ唐揚げが一気にまずく感じた。私は冷やかすのは好きだ。みんなみたいに手を叩いて色々言う方はもちろん好き。でも冷やかされる側は大嫌いなのだ。お願いだからそんな顔で見んな、手叩くな、誰だ指笛吹いてんの、ああたまらなく恥ずかしい!!!でも主役に指名された手前断るわけにもいかず、私は残ってたハイボールを一気に飲み干したあと皿と箸を持って人の後ろを謝りながら通って一番上座にいる主役の隣へと立った。なぜ指名されたかは不明。中村くんはなんか満足気な顔だしかみじょうくんはニヤニヤ笑っている。滝くんはこっちを見てるけどいつもの顔で菅原くんにいたっては顔を背けて爆笑しているようだった。なんなのこいつら。心の中でため息を吐くけど顔には笑顔を貼り付ける。



「なんで私ー?」



 皿と箸を持ったまま、空いてるほうの手の人差し指で中村くんの肩を突く。たぶん隣がおっさんだったからとか、なんかそんな理由なんだろうと踏んでねぇねぇ、と続けると中村くんは私の期待を大きく裏切りみんなの顔じゃなく私の顔をじっと見つめて



「好きなようにしていいんでしょ」



 と言って



「だから好きなようにした」



 さらに続けて



「みょうじの隣がよかった。それじゃダメ?」



 なんて、強烈な言葉のパンチを真顔で三発打ち込んできたから私はこめかみがズキズキと痛むのを感じた。せめて、せめて冗談風に言ってくれればよかったのに。目がマジだ。そしてそんな中村くんのとんでも発言に冷やかしの種類が若干変わってきて、ちらほらハグだのキスだの単語が跳んでき始めたから慌てて中村くんの腕を思いっきり引っ張りながらその場に座った。座ったところで注目の的からは外れられないんだけど知らない振りをして私は大量にサラダを盛る。聞こえませーんと冷やかしに律儀に返事をしながら。



 みんなそれぞれ好き勝手に席を替えては熱い話や世間話、噂話に花を咲かせている。私はというといまだ中村くんの隣に座ったまま動けない。大量に盛ったサラダは食べてしまったし、二杯目のハイボールもあと一口で飲み干してしまう。中村くんは向かいに座っているスタッフさんと何か真剣な話をしながらも床についてるように見せかけた手でしっかり私の手を握っていた。ここから動くなよという無言の圧力がすごい。



「何飲みますー?」



 私の隣の席が空いたのでそこに座ってきたかわいらしい音響のスタッフさんにメニュー表を差し出された。気遣いが素晴らしいなと思いながらメニュー表を受け取る。本当はハイボールもう一杯と言いたかったけどわざわざメニュー表まで持ってきてくれたから言いづらくて、私はメニュー表を眺めることにした。どうしよう。ここで霧島!水割りで!とか言ったら思いっきり引かれるんだろう。隣の中村くんも幻滅するかもしれない。



「あ、俺ハイボールおかわり。ついでにみょうじも」



 うんうん悩んでいたら急に隣から中村くんが口を挟んできて、びっくりして振り向いたけど中村くんは私のことを見ておらず大きな手で空になったグラスを押しやっていた。



「はぁい」



 嫌な顔一つせず返事をしてさらにはにっこりとかわいい笑顔を向けてくれたスタッフさんはすみませーんと店員さんを呼び止めるために席を離れていった。中村くん、私じゃなくてあの子のほうがいいんじゃないの?



「・・・何、ハイボール嫌だった?」

「え、いや、別に・・・」

「ふーん」



 手を離そうとしないし、かと言ってものすごく話しかけてくるわけでもなく、ただ私は中村くんの隣に座らせられている。居心地が悪い。私は下座でぎゃーぎゃー騒ぎながらみんなの注文を受ける係りが一番向いてるのに。
 誰か話しかけにきてよーと思っているとふと手の甲を指で軽く叩かれた。隣を見ると中村くんがこっちをじっと見ている。同じように見つめ返してみるけど、彼の意図は読めない。ためしに首を傾げてみる。中村くんは一瞬視線をそらしたあともう一度私を見た。



「ずっと聞きたかったんだけどさ」

「なに?」

「付き合ってるやついんの?」



 突然のパンチに思わず咳き込んでしまった。さらに「なんでよ!?」と悲鳴に近いような声まで上げてしまった。だけど話が盛り上がってる外野が入ってきそうな気配はない。もしくはわざと入ってこないのかもしれない。私は激しく瞬きを繰り返して中村くんから目をそらしたあと空いてる手でこめかみを押さえて肩で息をした。まさか中村くんからそんなこと聞かれると思ってなかった。そういうのにあんまり興味がない人だと勝手に思い込んでいたから。でもそれは間違いだったようだ。っていうか、私の恋愛事情を聞いたところで、中村くんは何も得しないだろうに、なぜ?もしかして、いやまさか。あり得ない。これは自惚れにもほどがある。なんて答えればいいんだろうか。



「ねえ」

「さぁ、どうでしょう」



 はぐらかすということにした私がチャラけてそう言うと肩を思いっきりぶつけられた。中村くんの肩はとてもたくましいからものすごく痛い。わかりやすく顔をしかめるけど彼はそれには一切突っ込まず早く答えろと目で訴えてくる。



「・・・あーもう、いないよ、いない。三年ぐらいいない」

「マジ?」

「笑いたきゃ笑え」

「じゃあ付き合って」

「・・・はい?」



 やっぱり自惚れでもなんでもなくて、中村くんは私に好意を寄せているようだ。じゃないとみんなの前で隣に座れなんて言わないし手も握られたりしないか。でも今まで全くそういう雰囲気にもなったことがないのにやぶから棒にそんなこと言われても正直戸惑うしかない。中村くんがいい人だってことは知ってる。意外と面白い人だってことも知ってる。優しいことも知ってる。でも、でもさ、たった数分前まで私は中村くんのことを友達としか見てなくて、やっぱり突然すぎる告白は戸惑う。え、とかあ、とか声を漏らしているとふと中村くんが笑った。あ、冗談だったのか。



「まあゆっくり考えてよ、本気だから」



 あ、冗談じゃなかったんですね。



そういう経緯で、私は君と恋を始めるに至った



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