洗面所に置いている新しく買ったクレンジングオイルのキャップを外すのに奮闘していると後ろから聞こえていたシャワーの音が少し静かになった。だけど振り向きはしない。中では彼氏がお風呂に入っている。
久しぶりのデートに選んだのは水族館だった。小学生以来の水族館は今をときめく人気声優の案内ボイスが流れていて、女性客で溢れかえっていた。ふれあいコーナーみたいな場所やペンギンが見れる場所のちょっと生臭い匂いが好きだったのに香水で完全にかき消されていてびっくりした。将司ともはぐれそうになるし、ちょっと失敗したかなと思ったけどイルカショーはなんと水が思いっきりかかる特等席で見れたから全部良しとすることに決めた。遊園地とか野外イベントとかで水をかけられることが好きな私はいい年した所謂“女性”が避けるようなところでも自ら進んで座りに行くタイプで、将司は笑いながらそれについてきてくれるタイプだから、私たちって相性がいいんだろうなあと水をかけられながら思った。
そんな学生みたいなデートから帰ってきてお互い一度お風呂に入ってからもう一度食事に出かける。そのための準備で現在将司は入浴中で私はクレンジングオイルと奮闘中。どこに行くか、何を食べるか、何も決めていない。でもそれがいい。
「なまえ」
取れた!と思った瞬間後ろのドアが開いた。エコーがかかった将司の声が私の名前を呼ぶ。振り向くとドアの隙間から顔を出してこっちを見ていた。濡れた髪はかきあげられていて、自分の彼氏ながら水も滴るいい男とはこのことを言うんだなと思った。
「どうした?」
「シャンプー切れた」
「うっそ、私今朝使った時まだあった・・・」
「ほら」
ドアの隙間から差し出されたシャンプーの容器は確かに軽くなっていて、私一人ならひっくり返して叩き出して使うけどさすがにそれを将司にやってとは言えないし、どうせ次は私が使うんだからどの道詰め替えは出さないといけなかった。
「ちょっと待ってて、今取るから」
そう言って私は詰め替えという詰め替えの買い置きを突っ込んでいる洗面台の隣の棚を開ける。シャンプーの詰め替えは運よく私の目の前にあって、濡れた手じゃキャップを開けづらいだろうと開けようとした瞬間、私は腕を引っ張られて熱を含んだ空気の中に連れ込まれた。あまりにもいきなりのことで悲鳴を上げると腰から抱き寄せられる。キャミソールとショートパンツの後ろの部分だけが濡れていく気持ち悪さに顔をしかめてしまった。
「将司!」
「いいじゃん、どうせなまえも風呂入んだろ」
「私まだ服着てるじゃん!化粧も落としてないし!」
振り向くとにやついた将司がちゅっと額にわざと音を立ててキスをした。その顔は夜にベッドの中で見るそれで、このスケベはまたいらんことを考えとるのか!と怒ろうとした、のに、それは頭からシャワーをかけられて消されてしまった。条件反射で目をつぶると少し掠れた笑い声がお風呂場に響く。次に目を開けたときには私は中途半端に濡れてしまって、布が肌に貼りつく感触が気持ち悪かった。どうせならびしょびしょに濡らせばいいのになんで中途半端にシャワーをかけるのをやめるんだ。髪も中途半端に水を含んでちょっとだけ重たくなってるのが腹立たしい。
「もー!やめてよー!」
「濡れるの好きなのに?」
「それは水を浴びるっていうのが事前に分かったイベント限定なの!」
つま先をかかとで踏みながら抗議するけど将司は聞く耳持たずで、楽しそうに笑っている。
「服着たまま濡れてんのって、エロい」
「スケベ!」
「いいじゃん、いいじゃん」
そう言ってくるりと私をひっくり返した将司は反抗しようとする私の手を自分の首に回させて、自分の腕は私の腰へ回す。
「たまにはこういうのも、な?」
これは私には拒否権がないやつ。思った時にはもう遅い。キャミソールの中に手を突っ込みながらキスをされる。仕方ないから、流されてやろう。かかとに当たった買い置きのシャンプーを軽く蹴って、私は深くなるキスを受け止める。
ゆらゆらゆらりら
浴槽の淵に座らせられてふらふらする頭で将司を見上げる。湯気の中でこっちを見つめる余裕のない火照った顔に心臓が早鐘を打つ。もう言葉もない。濡れた髪をかきあげればすぐに唇が降ってきて、体中に滑っていく。シャワーの流れる音の隙間、リップノイズだけが白く霞むお風呂場に響いた。
お風呂に入ってるまさしにちょっかいかけられてシャワーかけられたいよねって話からどうしてこうなった感
title by さよならの惑星
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