古びた鍵を開けて中に入った埃っぽい資料室にはたくさんの本や、資料が入っているだろうダンボールの山が重ねてあってお世辞でも綺麗とは言えない空間だった。窓どころかカーテンも閉めたままの薄暗い資料室で私は手の中にあるメモに視線を落とす。教授のこれもお世辞でも綺麗とは言えないミミズが這ったような文字を必死に解読する私の後ろで滝がうわー・・・と一人静かに声を上げていた。
「この中から探すの?」
「仕方ないじゃん、つかまったんだから」
膨大なる資料たちに立ち向かう元気なんて本当はほとんどなくて、手元にある小さなメモに書かれてある資料と本がどこにあるか見当もつかない。教授は鬼だ。角が生えていない鬼だ。
私と滝は資料室に一歩足を踏み入れてキョロキョロと辺りを見渡す。ダンボールは文字が書いてある丁寧なものと書いてない意地悪なものがあって、積み重ねられた本の埃をかぶった表紙は見ただけで頭が痛くなるような難しい言葉が並んでいた。先生のミミズ文字と見比べてみる。どうも違うらしい。
滝は小さな鼻歌を歌いながら隙間を通って奥の方へ進んでいった。メモは私が持ってるからなにを探すか分からないだろうに。そんなことを思いながら私も隙間に入って指でなぞりながら資料を探す。埃がついた指をこすり合わせて埃を落としながら少しずつ右へ移動していると同じように埃がついた指先に息を吹きかけて埃を落として少しずつ左へ移動していた滝とぶつかった。お互い顔を見合わせるとどっちも動くことなくぶつかった肩に力が入る。
「退いてよ」
「なかったよ、こっち」
「隅々まで見てないかもしんないじゃん」
「信用してよ」
ぐいぐい肩の押し合いをしていたそのとき、ふいに足のバランスを崩した私は後ろの資料の山にぶつかってしまった。結構高く積み重ねられた資料はぐらっと揺れて私の方へ降り注ぐように落ちてくる。一瞬で想像がついた痛みが怖くて目を閉じてしりもちをついた。だけど大きい痛みは襲ってこなくて、代わりに低い滝の唸り声が聞こえる。目を開けた瞬間、重たそうな本がバサッと滝の背中に落ちて開いた状態のまま床の上に落ちた。
「・・・滝?」
「いたた・・・」
「だ、大丈夫?怪我してない?」
「多分大丈夫だと思うけど・・・」
「ならよかったー・・・」
安堵のため息を吐くと急に滝との距離感が気になった。さっきは肩同士をくっつけてたというのに、私をかばうために覆いかぶさってくれた滝との距離が酷く近く感じた。わずかに震える吐息が分かる距離は急に私の心臓を早くした。
「滝、わざわざかばってくれてありがとう、あのさ」
床に置いていた手を滝の肩にもっていこうとした瞬間、私の手は滝の手に掴まれて動けなくなった。滝との距離がさらに近くなる。思わずごくんと唾液を飲み込むと滝がいつもよりどこか真剣な顔で口を開いた。
「なまえ」
「な、なに・・・?」
「キスしてもいい?」
こんな場所でなにを聞いてるんだ。私の文句は外に出ることなく滝に全部飲み込まれた。触れた唇からはタバコの香りがして知らない滝が私にキスをする。目を閉じるとまた唇同士が触れ合ってそこに酷い熱を持った。
資料室の秘密
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