「35歳っすか」
マグカップに緑茶を注ぎながらそう言うと、ソファにぐたっと寝転んでいた将司が喉の奥からうーと唸って返事をする。この男誕生日だからと言って丸一日酒を飲み続け、我が家に来たときはもう限界、トイレで盛大にリバース、私になんという仕打ちだろうか。確かに主役は将司だけどそんな将司の隣にいれる権利を持っているのは私なのだ。この誕生日は将司のものであって将司だけのものじゃないのだ。私だって恋人の誕生日を可愛らしくケーキでも準備して祝いたい。なのにこの仕打ちである。
「35歳にもなって彼女ほったらかして酔いつぶれてリバースっすか」
緑茶を注いだマグカップを将司の近くに持っていくと、将司はぐったりした体を持ち上げてふらふらした手でマグカップを受け取った。最近ソファのカバーを換えたばかりだからこぼしたら半殺しだと思ってたけどこぼすことも無く、少し飲んでおっさんくさく声を漏らしたあと将司はテーブルにマグカップを置いてまたソファにぐたり。
「何かいる?」
「んーん・・・」
「じゃあ寝るのね?」
「いや・・・」
「じゃあなに!」
苛立っても仕方ないと思う。なぜ私は彼氏の誕生日にこっそり準備していたケーキもプレゼントも渡すことなく冷えた体を温めるために緑茶を渡してぐったりしてるから寝る?って優しく聞いたのにそれさえ拒否されたらどうしろと言うんだ!
「ごめん」
「は?」
「誕生日、メールも返せなくて、」
「・・・そこら辺はちゃんと理解してるから大丈夫。っていうか私も30越えたしメールでそこまでうじうじなんて」
ばっかみたい、って続けたかったのに続けられなかった。言葉がつまってしまった。ばっかみたい、頭で繰り返す言葉はどんどん私の中に浸透していってるみたいでいつの間にか私は自分自身にばっかみたい、って言っていた。ばっかみたい、本当は期待してたくせに。メールが来ないこと気にしてたくせに。頭の中では理解してるって言い聞かせて、心は寂しかったくせに。
「俺が」
自己嫌悪の渦に巻き込まれているとき、将司がぽつりと呟いた。酔っ払って顔が真っ赤でむくんでいて、いつものしゃっきりしたかっこよさは跡形も無く消えているその顔は私を見ていて少しだけ歪んでいる。
「ここに、来たのは、」
吐きそうだったからでしょ、という言葉を必死に飲み込んだ。今は言う雰囲気じゃない。ダメだ、ダメ。
「会いたかった、本当に、」
ゆっくり起き上がった将司は自分が酒臭いことを分かっているのか私を抱きしめようとするけど空中に腕を漂わせて終わる。
「新しい一年の一番最初は、一緒がいいって、思ってた」
なのに真昼間からガンガン酒飲んで酔っ払って家に転がり込んだと思ったらトイレで吐いて最悪だよな・・・と次は将司が自己嫌悪の渦に巻き込まれ始めたから私は慌てて口を開く。
「そう思っててくれたならそれでいいから」
「でも」
「とりあえず寝なよ。私も一緒に寝るから、そんで明日考えよう」
明日後悔した顔で私を見る将司がばっちり頭に浮かんだ。むくんだ顔で謝ってくるのだろう。私はそんな将司に朝っぱらからプレゼントとケーキを押し付けるのだ。誕生日一緒に過ごせなかった分、明日は丸一日私だけが将司を独り占めできる日にする。部屋の中で二日酔いの将司と一緒にのんびり過ごして、思い出話や今後の目標なんてのも聞いて、もちろん今日の反省の弁も述べてもらって、そしたら私が頑張ってご飯を作るから二人で食べるんだ。
「明日」
将司が着ていた服をゆるゆる脱ぎながら言った。
「プレゼント、お前がほしいな」
酔っ払ったらそんなに恥ずかしいこともさらりと言えるらしい。
「・・・明日考えようね」
本当は飛び跳ねて喜んで将司を思いっきり抱きしめたいのに天邪鬼な私は意地悪を言って少しだけ唇を尖らす将司の頭を撫でた。
Happy Birthday MASASHI!!
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