彼女がリップを塗るたびに意識してしまう。唇に触れるだけで意識してしまう。生クリームがついた唇を舐める仕草だけで俺の頭はパンクしそうで、首をかしげる彼女に毎回なんでもないよと言うのが辛く感じてきた。付き合って一ヶ月。嫌われるのが怖くて俺は彼女にキスの一つもできないまま悶々と日々を過ごしている。

もし俺の立場がかみじょうくんだったら簡単にやってのけるんだろう。和彦だって実は器用だから俺みたいに迷わないと思う。滝はあの優しい笑顔でさっとやってしまう気がする。俺だけが彼女の唇を意識して身動きが取れないまま。










「今日もすっごく楽しかった」



月に数回しか出来ないデートの終わり、彼女は絶対そう言ってくれる。俺がドジろうと段取り悪かろうと絶対最後は笑顔を見せてくれる。それだけで俺は救われた気持ちになるし、胸がじんわり暖かくなった。

でも今日の俺はそこでは終わらせない。

数少ない女友達に男は肉食の時代よ、と今にも噛み付かれそうな勢いでそう言われたから俺は今日から肉食獣として生きることにした。それは言いすぎだけど、ひょろひょろの草食系からがっつり肉食系にシフトチェンジをしようと計画してたわけだ。
だがしかし。今日一日俺は普段通りで肉食系になることは出来なかった。情けない、と女友達が頭の中で鼻で笑う。



「卓郎?」



何も言わない俺の顔を覗き込んだ彼女の唇はぷるんとしていて潤んでいる。ああ、引き寄せられそう。だけどいきなりキスして引かれるのも嫌だしどうしよう俺・・・。
そんなことを延々考えていると彼女が少し寂しそうな顔をして俺から離れていった。あ、ヤバイ。傷つけちゃったかも。



「ごめんね、疲れちゃった?」

「いや、全然!ちょっと、考え事してただけで・・・」

「そっか」



彼女が俺に背を向ける。ああ、こっちを向いて!



「ねえ、」



なるべく優しく肩をつかんでこっちを振り向かせると、やっぱり少し寂しそうな顔をした彼女が首をかしげて俺を見た。あ、今だ。



「あの、」

「は、はい?」

「キスしてもいいですか」



さっといけばいいものの。やっぱり俺は肉食系男子にはなれないらしい。
情けなく許可を取ろうと恐る恐る顔を覗き込むと、彼女はなぜか満面の笑みを浮かべて少しかかとを上げた。



「はい、どうぞ」



そして俺はようやく目を閉じた彼女にキスが出来た。彼女の唇からはさっき飲んだカシスオレンジの甘い味がして少し暴走しそうになったけど、嫌われたくなくて、ゆっくり唇を離した。彼女もキスが終わってゆっくり目を開けてかかとを降ろす。



「ずっと待ってました」



照れて恥ずかしそうにそう言った彼女を力いっぱい抱きしめた。



空回りの僕