文化祭の休憩中、じゃんけんに負けた私はみんなの分の飲み物を買いに行かなくてはいけなくなった。頭の中でメンバーの人数を数える。げ、七本も買わなくちゃいけないじゃん。しかも私の奢りって、コンタクト買ったから給料日までかつかつなのに。
そんなことをぼんやり考えながらジュースを売ってる後輩の出店にやってくるとそこにはちゃらちゃらした後輩がぼんやり座っていてかわいそうに休み時間に店番を頼まれてるようだった。
「かみじょうー」
「あ、」
名前を呼んで近づくと、気付いたかみじょうがだるそうに体を動かして立ち上がった。よお、と手を上げると向こうも手を上げてくれる。ちゃらちゃらしてるけどかみじょうは私が入ってる部活の後輩でかわいいやつだった。
「店番?」
「じゃんけんで負けて・・・」
「あ、私と一緒じゃん」
「え?」
「私もじゃんけんで負けてみんなの分のジュース買いに来た」
ほれ、と財布を見せればかみじょうはお互い不運ですねと笑ってクーラーボックスを開けた。中には冷えた缶ジュースが氷水の中に七本浮かんでいる。オレンジジュース、コーヒー、水と種類はばらばらだけどとりあえずみんなの分はあったからよかった。
とりあえず全部頂戴、そう言えばかみじょうははーいと気だるく返事をしてシャツの裾を捲った。ドラムで鍛えられたたくましい腕がクーラーボックスの中へ入っていく。秘密にしているけど私はかみじょうの腕が好きだった。腕フェチの私からするととてもいい筋肉のつき方をしている。そんな腕をじーっと見つめてると、かみじょうは飲み物を白のタオルで拭きながら腕フェチですかとぼそっと呟いた。うん、ばれてる。
「かみじょうはいい筋肉のつき方してるね。さすがドラマー」
「あざーっす、880円になりまーす」
「え、高っ、ちょっと安くしてよ」
「無理っすよ、決められた値段ですから」
「・・・ちぇ」
財布から取り出した千円札をかみじょうに渡すと120円のおつりが返ってきた。これだったらもう一本飲み物買えるじゃん。ないけど。
120円を財布に入れて、袋に入れられた飲み物を受け取ろうとしたらかみじょうがそれを持ち上げて売り場から出てきた。
「え、ちょっとあんた店番は?」
「もう売り切れたし大丈夫でしょ」
「いいのかよ・・・」
「重いから持っていきますよ」
「・・・あざーっす」
本当は来て欲しくなかった。だって休憩中のメンバーの中にえらくかみじょうを気に入ってる子がいるからだ。べたべた触られるのはなんだか先輩として気分が悪い。でもかみじょうも満更でもなさそうだからなにも口出しできないけど。
ふとかみじょうが隣に立った瞬間、薄っすらとミントの香りがした。顔を見ればかみじょうはもぐもぐガムを噛んでいて、余計に態度が悪く見える。っていうか今更かよ、頭の中で私がつっこんだ。
「ガム噛んでる」
「うん」
「いいなー」
「・・・いる?」
「え、くれるの?」
じゃあありがたく、と手を差し伸ばした瞬間、私の手はかみじょうに握られていてそのままかみじょうが走り出した。びっくりして足をもたつかせながらそれに付いていくと遠くからのんびりした廊下は走るなよーという先生の声が聞こえる。私だけが返事をしてかみじょうは走る足を止めなかった。
「ちょ、かみじょう、」
連れてこられたのは生徒があまり使わない階段の下の陰だった。かみじょうは飲み物が入った袋を持ったほうの手で私の肩をつかんで顔を覗き込む。
「かみじょ、」
「キスしてもいいですか」
返事をする前にかみじょうはまるで噛み付くように私にキスをした。誰かに見られたらまずい、そのことだけが頭を駆け巡る。だけど押し返そうとしても動かないかみじょうは私の唇に隙間を見つけるとそのままガムを口移した。かみじょうの口の中にあったときはうっすら感じていたミントの香りが急に強くなる。
「ガム、あげる」
にたぁっとやらしく笑ったかみじょうの胸を叩いた。先輩に対してなにしてやがる。恥ずかしくて顔も上げられないじゃないか。
「先輩、かわいい」
もう一回、と呟いて唇が迫ってきた瞬間休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴って二人の肩が大きく跳ねた。やばい、重なった二人の声は静かに響く。
「先輩、これ持っていけなくてすみません」
「いや、別に、えっと」
「それじゃあ」
ちゅっと軽いリップノイズを立ててもう一回キスをしたかみじょうはしたり顔で私を残して走っていった。私は手渡された袋の中の飲み物の重さを感じながらぼけっとかみじょうからもらったガムを噛んだ。
こびりつくミント味
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