自分でも恥ずかしくなるぐらい幼稚だ。和彦が他の女の人のことを話すことだって連絡したりすることだって今に始まったことじゃない。それに私はそれを止めれるような立場じゃない。だって、ただの腐れ縁の同級生だから。


 ヒールで躓きながら登ったジャングルジムの一番上から見える景色は特にきれいじゃなかった。夕方だしこの恥ずかしさをかき消してくれるようなセンチさを出してほしかったけどちょっと無理がある。高台にある公園ならもっといい景色で恥ずかしさをかき消してくれたかもしれないけど、ここは住宅街の離れにある寂れた公園。一番高い場所に上ったって二階建ての住居にさえ勝てない。


 高校生の時から和彦のことが好きだった。だけど意気地なしの私は告白することもなくずるずる不定期に同級生で集まって飲み会をするだけの関係を続けている。ちょっと他より仲がいい男女の友達、それが和彦と私。これから先、多分一生これ以上にもこれ以下にもなれない。


 今日も不定期開催の飲み会の日だった。いつもと違ったのは言い出しっぺが和彦だったことと、偶然私がみんなより早く到着してしまったということ。部屋にはもう和彦がいて、テーブルに肘をついてスマホをいじっていた。うるさくなる心臓を何度か叩いた後、作り慣れてしまった笑顔を浮かべて和彦の前に座って「久しぶりー」といつもと変わらない、変えてはならないテンションで挨拶。それに対して和彦はやっぱりいつも通り適当に手を振りながら「久しぶり」と言う。いつもならここで他の友達にも挨拶をするのに誰もいないからそこで会話は完全に途切れた。話題を探しても探しても結局見つかるのは前に聞いたことばっかりで沈黙が出来る。でも和彦は気にしてないのかずっとスマホを触っていて、それが嬉しいのか悲しいのか分からなくなった。わざわざ話題を探さないでも気まずくないと思ってるから話しかけないんだと思えば嬉しいけど、私に全く興味がないから何も話しかけないんだと思えば悲しい。和彦の気持ちはどっちなのかずっと一人で悩んでいると突然「見て」と言われた。下がり気味だった視線を上にあげてこちらに向けられたスマホの画面には楽しそうな飲み会の写真。和彦は知らない女の人と楽し気に笑っている。・・・これを見て私はなんて言えばいいの?何が正解なの?ふつふつとお腹の底からこみ上げる怒りと悲しみが言葉にならずに目じりを熱くする。



「これ―――」

「和彦のバカ!!!」



 声を遮って立ち上がった私は居酒屋を飛び出してこの公園まで走ってきていた。そして冒頭へ。冷静に考えると恥ずかしい。いい年した女がなにが「和彦のバカ!!!」だ。一番のバカは私だ。なんで「どうしたの?」の一言ぐらい言えなかったんだろう。ゆっくりその人との関係を探ることだってできたはずだ。和彦と二人っきりだからって一人でテンパってバカみたい。みたい、じゃない。本物のバカだ。

 すたすたとスカートの上に涙がシミを作る。別に乾けば何も問題ない。分かってる。でも、汚い。やきもちと羞恥が混じった涙は本当に汚い。



「見つけた」



 低い声が聞こえた。思わず顔を上げるとそこには和彦が、何も持ってない状態で立っていた。バッグは?隣に置いていた、あの大きなやつ。混乱した頭でそんなことを考える私に一歩近づいた和彦は頭をかきながら咳払いをした。



「なんで逃げるかな」

「え・・・っと・・・」

「人の話は最後まで聞けって昔から言ってんだろ」

「・・・ごめん・・・」

「あの写真見せて、俺が何言いたかったか分かる?」

「・・・わかんない」

「俺、なまえのこと話してるときあんな顔してんだってさ」



 ジャングルジムを掴んでいた手がつるりと滑って上半身がぐらっと揺れる。慌てて体の中心に力を込めて倒れるのをこらえると和彦が両手を広げた。その手は私に伸びている。



「こい」

「・・・でも」

「いいから」



 そういうと和彦が笑った。降りていいのかな、あの腕の中に行ってもいいのかな。



「・・・ちょっとまって」

「は?」

「こ、怖い」



 降りようと足を少し下に持っていって体が固まる。さっきまではなんともないと思っていた高さがいきなりとんでもない高さに感じたのだ。私はよくヒールでここを駆け上ったな。今、足が小刻みに震えている。



「自分で上っといて?」

「そ、そうなんだけど・・・!」



 恐る恐る下の段に足を乗せると体がぐらついた。怖い。私、なんで上ったんだろう。



「大丈夫だから」

「うぅ・・・!」

「ほら」



 ジャングルジムに近づいてさらに腕を伸ばしてくれる和彦を信じてじわりじわりと降りていく。そしてやっと最後の一段、とほっとした瞬間私は和彦に体を抱き上げられて下された。突然のことに心臓がバクバクする。間近で見上げある和彦は余裕綽々な表情で私を見ている。



「大丈夫だっただろ?」

「・・・うん、大丈夫だった・・・」

「これからは人の話を最後まで聞けよ」

「はい・・・」

「じゃあ、ほら」



 そう言って和彦は私の手を取った。指同士を絡められてちょっとだけ力を込められる。



「戻ろ」



 無言でうなずいた私の顔はきっと真っ赤だ。