鏡越しに見える将司はヘアアイロンを持って真剣な顔をしている。私は普段使わない化粧品を並べてなるべく頭を動かさないようにしながら化粧を始める。窓から差し込む柔らかな夕日。部屋は静かで妙に緊張する。

 今日は私の誕生日だ。昨日の夜から将司が家に泊まりに来ていて、久しぶりに家族以外と誕生日を過ごしている。でもただのんびり過ごしているわけじゃない。私はのんびり過ごすだけでよかったんだけど、将司はいろいろ準備をしてくれているらしい。しかも、私がものすごく恥ずかしくなるようなことばかりだ。

 将司が車から降ろしてきたのは自分じゃ絶対選ばない形の紺色のワンピースと赤のパンプス。今年のプレゼントだという。こんなものを着る機会なんてない、と言ったけど、今日絶対着ないといけない、と不敵に笑われた。花束をさらっと渡してくれるような男だ。自分が少々恥ずかしくても、ロマンチックなことをやってのけるに違いない。私が恥ずかしくてたまらなくなることを理解したうえで。



「・・・ねえ、将司」

「ん?」

「これ、さぁ・・・」

「似合ってる」



 リキッドファンデーションをポンポン肌に塗りながら鏡の中の将司と目を合わせるけど将司は笑顔でそう言う。器用な手つきで私の決して長くはない髪をくるくる巻いてくれる将司にそれ以上何も言えなくなって私は仕方なく化粧を続けた。服と髪に負けないような華やかな化粧をしてくれと指示されてるので前に友達から貰ったラメつきのアイシャドーを手に取る。普段使っているプチプラとは違うブランド物の化粧品はケースを持つだけでなんとなく緊張してしまう。明るいオレンジをまぶたに乗せて広げていけばただでさえ自己主張の激しい目元がさらにきつくなったように見えた。

 赤のリップティントを塗り終えて鏡に映っている私は普段より一応華やかな顔になったと思う。そして将司に指定された大ぶりのリングピアスをつければ私が出来ることは完成。最後は将司がくるくるに巻いた私の髪をまとめて整えてくれて、見たことのない私が出来上がり。



「・・・うん、完璧」

「そう・・・」

「照れてる?」

「自分じゃないみたい」

「誕生日だし、いいんじゃない」



 将司は満足げに笑った。その笑顔を見たらむずがゆい自分でもいいのかな、と思えてしまう。



「よし、じゃあ俺も着替えるか」

「分かった。じゃあ」

「あ、ストップ」



 そう言って将司は立ち上がろうとした私の肩を押してすとんと座らせた。振り向こうとしたけどそれも阻止されてまた鏡の中のむずがゆい私と対面する。何をされるのか少し不安になっていると将司は近くに置いていた自分のバッグから細い長方形の箱を取り出した。結ばれていた赤色のリボンをするりと解いて開けられた箱にはキラキラしたものが入っている。そっと指で持ち上げられたそれを持って将司がまた私の後ろに立った。ひんやりしたものが鎖骨を滑って首元で光る。それは小さなダイヤがついたシルバーの細いネックレスだった。



「・・・え」



 鏡に映った自分の顔が一気に赤くなったのが分かった。私の後ろの将司も少し照れたような顔で目じりをかいている。



「・・・将司」

「うん」

「私、こういうの・・・!」

「まあまあ」



 勢いよく振り向いた衝撃で落ちた髪を耳にかけながら私と同じ目線になるようにしゃがむ。そして優しく笑った。



「今日ぐらいお姫さま扱いされれば?」



20180411 y