「立派な花束もらったねえ」
ずんちゃんの家には花瓶が一つも無かったから私が近くの百均で買ってきた花瓶に立派な花束を差して部屋の一番きれいに見えるところに飾る。ずんちゃんはその花を嬉しそうに眺めてうん、とだらしなく返事をした。
今日はずんちゃんの35回目の誕生日だ。私からすればバンドの仲間とか誕生日が近いメンバー達とご飯に行って祝って欲しいんだけどずんちゃんは頑なに自分の家を選んでそして私を選んでくれた。交友関係は大事なんだよ?と何回言い聞かせても彼は頷かず私の料理が食べたいと言う。私にケーキを作ってくれと頼む。私は少し黒い肌をした大事な恋人を見下ろしてしばらく考えたけど今日は彼が生まれた特別な日なんだから私は彼の望みを全て受け入れることにした。
「うんまいねこれ!」
「ほんと?私が適当に味付けしたんだけど・・・」
「うまい!」
「よかった」
「煮付けもうまい!」
「頑張った甲斐があった」
「でもいつの間にこんなに料理うまくなったの?」
「クックパッド」
「・・・」
「冗談!そこそこ女性として人生経験積めばこのぐらい作れるようになるんだよ」
「そっか」
ずんちゃんが単純で本当によかったと思う。
「ずんちゃんケーキ入る?」
ご飯を二杯おかわりしておかずもほとんど平らげたずんちゃんにそう聞くとしばらく彼は自分のお腹をじーっとみつめたあと入る!と笑顔を見せた。本当に35歳なんだろうか。30歳サバを読んでるんじゃないだろうか。・・・というか中身だけ5才児のままって考えたほうがしっくり来るか。
私は少し小さな手作りのショートケーキを冷蔵庫から出してお皿を全部シンクに持っていった何もないテーブルの上に乗せた。ずんちゃんの歓声を笑いながら聞いてポケットに忍ばせていた“35”の数字のろうそくを真ん中に立てる。
バンドの人たちに祝ってもらえばもっと立派なケーキが食べれたはずなのにずんちゃんはお菓子作りど素人の私のがたがたケーキを選んでくれた。
女がタバコを吸うなんてはしたないと思う人もいるかもしれないけどでも結構持ち歩いてたらライターが役に立つことがある。今だってろうそくに火をつけるのに百円ライターが大活躍している。ずんちゃんは私がろうそくに火をつけてる間にカーテンを閉めて電気を消して自分の席に戻るとわくわくした顔でろうそくの火を見た。
「・・・じゃあずんちゃんの35回目の誕生日を祝いまして」
二人しかいないから。私はぱちぱち手拍子をしながら誕生日の歌を歌った。少しだけ恥ずかしかったけどずんちゃんのとろけるような笑顔が見れたからそんなの一気にどうでもよくなってしまう。
「おめでとう」
ふーっと消されたろうそく。部屋は暗い。
「お願い事した?」
「願い事?」
「ろうそくを一息で消すときにお願い事したら願いが叶うんだって」
「え、知らなかった」
「結構有名なのに!損しちゃったね」
「うーん・・・でも結構どうでもいいかな」
「なんで?」
電気をつけてカーテンを開けたらずんちゃんがショートケーキのイチゴをつまみ食いしながらふふふと笑った。
「一緒にいるじゃん」
「え?」
「一緒の時間を過ごせてるってことが、俺の願い事になるわけだから」
もう叶っちゃってんだよね!明るく言ったずんちゃんに私は泣きそうになった。そんなに私のことを思ってくれてるんだ。そんなに求めてくれてるんだ。そんなに愛してくれてるんだ。
「フォークが食べやすい?」
「あ、待って切るから」
「そのままでもいいよ?」
「三角のケーキって、ケーキって感じがしていいじゃん」
私がそう言うとずんちゃんはすぐに笑ってそうだね!と言った。がたがたのショートケーキは柄の違う二つのお皿に盛り付けられて残ったふた切れは少し大きなお皿の中でぱたんと倒れている。
「いただきます!」
ど素人がレシピを見ながら作ったケーキは自分で食べたら少し味気なく感じたけど、ずんちゃんが笑顔で満足してくれたならいいか。
「・・・じゃあ帰るね」
花瓶に活けた大きな花束を見ながらそう言うとずんちゃんは寂しそうな顔をして元気のない返事をする。
悪いことだって分かってる。だけど私はずんちゃんを見捨てられなくて、ずんちゃんもそんなわたしを愛してくれている。
「また来るよ」
「・・・誕生日」
「ん?」
「一緒に過ごしてくれて、ありがとう」
泣きながら笑うなんて器用なことはできない35歳がぼろぼろ泣きながらそう言った。私は釣られて泣きそうになりながらもずんちゃんの涙を少しだけ指先に乗せるように拭う。
「・・・またね」
「・・・うん、またね」
古いマンションの重たい扉を開ければ外はもう真っ暗で風も冷たくて現実を私に叩きつけているように感じた。ずんちゃんの泣き顔を隠すように閉まっていく玄関。閉まりきっても鍵をかける音は聞こえない。
私はタバコをくわえて火をつけた。苦い煙のせいで、少し涙が滲んだ。
Happy Birthday EIJUN!!
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