和彦と酒を飲むとろくなことがない。つまみ強奪戦争がおきたり、メニューの取り合いが始まったり(大体これはちひろくんに止められる)、宅飲みすればどちらが飲み物を持ってくるか、氷を持ってくるかで言い合いが始まって、最終的にいろんな罵りあいが始まる(誰かがヒプノシスマイクと呟いて大爆笑が起きたこともあった。酔っ払いはうるさい)。
これはまだいい。最悪なのはどっちかが酔いつぶれることだ。和彦が酔いつぶれて私が面倒を見なくちゃいけない時もあるし、逆に私が酔いつぶれて和彦に面倒を見られることもある。なにが悲しくて酔っ払いが酔っ払いの介抱しなきゃなんねぇんだ、潰れた和彦を見たときの私の口癖で、潰れた私を見た和彦の口癖だ。そして次会った時に始まる罵りあい。永遠ループである。
「私の家で飲む意味が分からない」
ストロング缶を開けながらそう言えば、いいタイミングで飲み干したんだろうビールの缶をつぶした和彦がげっぷで返事をした。汚いなあ、とげんなりした視線を送るけどそんなもの気にもならないらしく、膝をついて立ち上がって私の許可なしに冷蔵庫へと歩いて行った。
和彦と酒を飲むとろくなことがない。なのに定期的に和彦は私の家に酒を買ってやってくる。暑くても寒くてもやってくるから追い返すわけにもいかず、仕方なく迎え入れれば「ただ酒だから得じゃん。場所ぐらい提供しろよ」ととてつもない上から目線で物を言いやがる。本当は今すぐに蹴り飛ばして追い返してもいいんだけどなぜか私は毎回甘んじて和彦の訪問を受け入れている。
また一本ビールの缶を持ってきた和彦は私の頭に一回缶を置いて元々座っていた場所に腰を下ろした。なぜ一回私の頭を経由したかは聞かないことにした。
「っていうか飲むペース早すぎでしょ」
「お前が遅い」
・・・って会話をして、どのぐらい時間が経っただろう。ビールとハイボールをハイペースで飲んでいた和彦とストロング缶を2本開けた私はそこそこに酔っ払っていた。お互いのビジュアルの罵りあいをするぐらいには酔っ払っている。でもまずい酒を同期や上司と飲むより全然マシかなんて思いながらさすがにアルコール9%で肝臓を殴ることをやめようとしていたら、和彦が自分の飲みかけのビールを私に押しやってきた。こいつがこんなことをするとか信じられない。呆気に取られていると赤い顔で飲めよと言われた。
「酔っ払いすぎなのでは」
「・・・もっと飲め」
「なんでよ、十分飲んだって」
「お前が酔っ払ってないと話が進まねえんだよ」
「アルコール9%で肝臓殴りすぎて酔っ払ってるっつーの」
「じゃあさ」
自分が私に押し付けた缶ビールを取り上げてどっかに置いた手が流れるように私の手を引っ張って、顔と顔が一気に近くなる。和彦の目はしっかり酔っ払っていた。「酔っていたから仕方ない」という言い訳が使えるレベル。私はまだそこまで到達はしていないようだ。
「好きって言ってよ」
「・・・は?」
「ほら」
近づいてきた唇が柔らかく頬の輪郭をなぞる。一瞬心臓が止まったかと思ったら勢いよく動き出した。沸騰したように熱い血が巡ってアルコールのせいもあって頭がくらくらする。
「なまえ」
「ま、まって」
「酔っ払ってんだから、お互い忘れるだろ」
視界の端にちらついた耳は酔ったときとは違う赤さに見えたけど、抱きしめられた今確認する術はない。
「・・・忘れないくせに、ばーか」
自然と腕が背中に回る。なにやってんだろ。酔っ払ってるから、仕方ない、か。
アルコールでぶん殴るラブストーリー
目が覚めると私も和彦も床で眠っていた。長い付き合いだけど一緒に起きるということは初めてだ。自分が着ている服と眠る和彦を見て一線は超えていないこと確認する。
「いたっ・・・」
床で寝ていたこととアルコール9%の暴力で久しぶりの二日酔いの洗礼を受ける。こめかみがずきずきする。
「・・・あ」
温かいお茶を飲もうと起き上がると和彦のスマホの画面が明るくなっていた。音は鳴ってないからマナーモードにしているようで、その画面には“4月24日 09:53”と文字が浮かんでいる。
もしかして、が頭をかすめる。あの時私は時間を見ていなかったけど和彦はどうだったんだろう。でもこの男そんなことするか?・・・するかもしれない。何をするか分からないのが和彦だし、そこが、そこが。
「すき」
そっとささやいて私は立ち上がった。熱くなる頬を叩いて、部屋を出る。やっぱり和彦と酒を飲むとろくなことがない。
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