ピアスのキャッチを耳たぶに押さえつけながら私は和彦の到着を待つ。久しぶりに休みの日が重なったから昼間から出かけようと出した提案が意外とあっさり採用されドライブに行くことになったのだ。最近のデートはもっぱら夜飲みに行くことばかりで、たまに昼間一緒に過ごせることがあってもそれは和彦の睡眠時間に当てられる。動くのは大体夕方からでお日様が高い位置にある時間帯に出ることは本当に少なくなっていた。和彦が忙しいことはもちろん知ってるし私自身も仕事の時間がバラバラで夜が一番会いやすいってことは十分理解してるけど、それでもやっぱり昔していた健全なデートがしたかった。別に特に行きたい場所があるわけじゃないけど。
たくさん行き来する車の中に最近マンションの駐車場に止まっているところしか見ていない黒の大きな車を探すけど見つからない。大きな遅刻をしているわけじゃないけど楽しみな気持ちのせいで和彦が遅く感じる。でも嫌じゃない。懐かしくて新鮮なこのわくわく感は普段の色あせて見える世界を鮮やかに見せてくれている。まずはコンビニでおにぎりでも買おうかなんて悩んでいると視界の端に減速している車が入った。それは見たことのないピンクの軽自動車。私の周りに人はいないし何かお店があるわけでもない。どうしたんだろう、と眺めているとその軽自動車はゆっくり私の前に止まった。
「・・・え?」
目を見開いた。私の知らないピンクの軽自動車に乗っていたのが、私が待っていた人だったからだ。運転席に座っている和彦は久しぶりのデートだというのにちょっと嫌そうに顔をしかめていて、動かない私に気づくと助手席側の窓を開けて「乗れよ」と一言そう言った。和彦の言葉に私は少し戸惑いながらも助手席のドアに手を伸ばしてそっと開ける。和彦の車と違うどこか女性らしい芳香剤が香って思わず乗ることを躊躇うと和彦はハンドルにひじをついて視線で乗れと促した。
「どうしたの、この車」
ようやく車に乗ってそう聞くと和彦は嫌そうに呟く。
「姉ちゃんの車」
「え?なんで?」
「俺の車勝手に使われてた」
「誰に?」
「姉ちゃん」
弟の車を勝手に使うもんなのか。私は自分の車を持っていないからよく分からないけど。
「めちゃくちゃ嫌そうだね」
「・・・だって」
ちょっと窮屈そうな運転席でちらりと私に視線をよこした後和彦はやっぱり嫌そうな顔のままだった。
「ピンクの軽とか、かっこ悪いじゃん」
久しぶりに出かけるのに、と付け加えて車の中が静かになる。私は和彦が言ったことの意味が分からなくて一瞬頭がフリーズしてしまったけど、数秒経ってようやく隣の彼氏がとんでもなく可愛いことを言っているということに気づいてしまった。ピンクの軽がかっこ悪いなんて幼い男の子が言いそうな事をちょっと機嫌悪く恥ずかしそうに言っちゃう和彦が愛しくてたまらなくなる。しかも理由が私と出かけるからなんて、ときめく胸に止めを刺すようだった。
「笑うな」
笑ったつもりなんてなかったのに和彦にはそう見えたらしく睨まれてしまった。私は謝りはするものの顔はいうことを聞いてくれず口の端が持ち上がってしまう。車を勝手に使われたのならドライブを止めてもよかったのに、それでも迎えに来てくれたことが嬉しくてにやけは治まりそうにない。そうやってにやにやしていると信号でゆっくり車を止めた和彦がため息をついてくしゃくしゃと頭をかいた。その仕草は恥ずかしいときに出てくるものだと私は知っている。
「ねぇ、どこ行く?」
顔を覗き込みながらそう聞くと和彦はやっぱり嫌そうな顔で「適当に」と言った。
「私それ大好き」
「・・・知ってる」
一瞬だけ表情と声が優しく緩む。ああ、なんて幸せなんだろう。
ランデブー日和
街並みから景色が海岸線へと変わっていく。和彦もやっと嫌そうな顔をやめて車をどんどん走らせる。眩しい日が降り注ぐ道は長く続いていて、このままどこまでも行けそうだと思った。
title by チエラ
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