将司さんに褒めてもらったネックレスを撫でながら車の中で深呼吸をする。今日は10月8日、将司さんの41回目の誕生日だ。そして私は今日、将司さんに告白をする。
将司さんを好きになってもうどのぐらい経つんだろう。気づいたら目で追っているし、栄純さんからはにやにや笑われながら「恋煩い」と言われてしまった。確かにこれはもう病気だと思う。将司さんは何をしてもかっこよくて、かわいくて、素晴らしい男の人だと、この人以上に素敵な人はいないと断言してしまうほど好きだ。だけどそれを伝える勇気が1ミクロンもない私は情けなくニコニコしてるだけ。ここだ!押せ押せ!みたいなタイミングは幾度となく遭遇したけど全部ものに出来ず。友達からは呆れ果てられている。そんないい男、他の女がほっとくわけないでしょと脅されてもいる。確かにそうだ。分かってる。私より素敵な人が将司さんと付き合うことだってあり得る話だ。こんな業界、将司さんの好みの女性がいきなり現れたっておかしくない。私なんかじゃ到底勝てないような人がきっと現れる。
「分かってんなら告白しなよ」
「・・・おっしゃる通りです」
つけまつげを付けた重たそうな目元で私を見ながらタバコを吸う友達に返す言葉が見つからない。本当に、傷が一番浅く済むには将司さんに彼女がいないということがはっきり分かってる今、私が告白するほかないのだ。
なけなしの勇気、というかほとんどやけっぱち。12本のバラをもって将司さんの住んでいる部屋のインターホンを押す。すると返事もないまま乱暴に鎖が揺れる音がしてまだ心の準備が出来てないのに!と泣きたくなった。しかしそんなの知ったこったというみたいにドアは勢いよく開く。ええい、どうにでもなれ!!
「お誕生日おめでとうございます!」
下げていた顔を上げればそこにいた将司さんは歯ブラシをくわえたまま、明らかに朝の支度中だった。先に連絡をしていた方がよかったかもと内心だらだらと冷や汗をかく。しかも差し出した花束を受け取ってくれない。
これは、やらかした。
「・・・将司さん?」
なるべく動揺してないように名前を呼ぶとハッとした様子で将司さんが慌てて花束を受け取ってくれた。ほっとしたのもつかの間、手のひらを目の前に向けられる。ちょっと待ってということなのだろうか。聞く前にちょいちょいと手招きをされて何も考えずほぼ条件反射で足を踏み出した。今何が起こってるんだろうか。いつもの癖でカギをかける。手招きを続ける将司さんに向かって歩くと花束を返されて、歯ブラシを指さした後リビングを指さした。どうやら待っていてということらしい。緊張しすぎて乾いた笑いがこぼれる。引きつった顔を見られたくなくてお邪魔しまーすとぎこちなく言いながらリビングへ入った。
将司さんの家のリビングは物がなくとてもすっきりしていた。物の配置は少し私の部屋に似ているけど、大きさが全て違う。緊張がマックスになってどうしていいか分からず水の流れる音を聞きながらうろうろしているとキュッと蛇口が閉まる音がした。それを聞いて何を思ったのか私は気づけばソファに座っていた。少し硬めのソファが小さく軋む。あれ、何してんだろう私??
「ごめん」
戻ってきた将司さんは普段見ないTシャツに少し寝ぐせのついた髪を耳にかけていた。心臓がばくばく暴れまくっている。今まで生きてきた中で絶対今が一番緊張している。
「それじゃあ改めて」
花束を渡すときの動きはぎこちなくなかっただろうか。改めて受け取ってくれた将司さんはいつものように優しく笑った。
「ありがと」
優しく甘い笑顔。ああ、好き。大好きだ。
「私、何番目ですか?」
ぽやぽやする頭でぽろりと口からこぼれたのは、聞くはずなかった質問。気づいたときにはもう遅い。将司さんの声で慌てて次の言葉を繋げる。
「将司さんにおめでとうって言えた順」
なーに聞いてんだ。もうすぐ昼だぞ。そんなの山ほどおめでとうの言葉をもらってるんだからいちいち数えてられるかあ!!私のばか!!
「一番」
「え?」
「今日初めて顔見ておめでとうって言ってくれたのは、なまえが一番目」
自分の失言を誤魔化すようにまあ数えきれないですよねーとか言おうとしたのに頭の中が真っ白になる。言葉にならない声を漏らす私に気づいてないのか将司さんは見たことがない甘い顔で私を見た。
「だから、めちゃくちゃ嬉しい」
頭の先からつま先まで燃えるように熱い。体中の血液が沸騰している。
「将司さん」
「ん?」
「だから、って、どういう風に取ればいいですか?」
真っ白な頭に浮かんだ疑問を素直にぶつける。すると将司さんの顔が一気に赤くなった。今の私の世界には赤と白しかない気がする。
沈黙が長く続いた。私の頭を真っ白から普通の色に戻るぐらい長い沈黙だった。これって、そういうことでいいの?
「あの!」
まっすぐ将司さんが見れなくて視線がいろんな場所へ走る。私は期待していいの?ダメなの?いいの?これって、今までつかみ損ねてきたタイミングなの?
「遠まわしでごめんなさい!」
「え、何・・・」
「それではお邪魔しました!!」
ほぼ無意識で勢いよく頭を下げて私は将司さんの顔を見ないままその場所から逃げた。心臓がもう壊れそうだ。エレベーターが来るのが待ちきれなくて階段を走って降りる。自分の車に乗り込んだ後ハンドルをバシバシと叩いた。
本数で花言葉って変わるんです
「どうだったー?」
「どうだったもなにもどうにもこうにも!?」
「どうしたどうしたどうした」
「私が」
「私が?」
「一番目だから嬉しいって」
「お?」
「それって、どう、ねえ!?」
似合っていると言ってもらえたネックレスを握りながらベッドを殴る。落ち着けと電話越しに友達が言うけどこんなもん落ち着いてられっか!!
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