待ち合わせは三時。今は二時半。夏休みだからか街には人があふれていていろんな世代の人たちとすれ違う。日差しはギラギラしていて、毛穴という毛穴から汗が噴き出して化粧が崩れる前に涼しい場所に逃げようと私は近くにあった本屋さんに入った。

 初めて入った本屋さんの中は買った本をすぐに読めるようなソファやテーブルが置いてあるスペースがあって、ここでもまたいろんな世代の人たちがいろんな本を読んでいた。じっと見つめるのも不審者だと思われるからちらちらと視線だけで本の表紙を眺める。アイドルが笑顔で並んでいる雑誌、ラノベ、誰かの自伝にお金持ちになる方法。本にもいろんな種類があるのは分かってるけど、少なくとも私が触れないような本を真剣に読んでいる人たちの姿は不思議な魅力があった。私も本が欲しくなるような、買いたくなるような、そんな気持ちになる。これが本屋さんの手法だったら相当敏腕な店長さんやスタッフさんがいるんだろう。そんなことを考えながら足を運んだのは話題の小説がたくさんあふれている本棚だ。山のように平積みされた小説の帯には大体ドラマや映画になったことのアピール、たまに人気の小説家の一文の感想、漫画化されたものはそのイラストが描かれていてぱっと見小説には見えなかった。そんな本の山を見下ろしながらふと目に留まったのは私が毎週見ていたドラマの原作の小説だった。こんな薄暗い表紙をしていたんだと思いながら手に取ってみる。つるつるした表紙の感触を指の腹で楽しみながら開いた最初のページの一行目を目でなぞる。なるほど、ドラマのスタートはこの一行目からじゃなかったのか。面白そう。買おうかな。



「ねえ、ひとり?」



 ページを飛ばし飛ばし読んでいたらいきなり声をかけらた。慌てて顔を上げるとそこには待ち合わせをしていた卓郎がにっこり笑って立っていた。待ち合わせ場所はここじゃないのにという驚きで声が出ない私を見ながら卓郎は続ける。



「お姉さん、俺とデートしない?」



 隣に並んで顔を覗き込みながら軟派なお誘いをしてきた恋人に思わず吹き出すと、つられた卓郎もおかしそうに笑った。



「ごめんなさい、私待ち合わせしてるから」

「あら、それは残念。かわいい子がいるな〜って思ったから声かけたのに振られちゃったよ」



 普段とは違う言いぶりが面白くて、それに合わせて丁寧に振ってあげると振られたというのに卓郎は満足げな顔をする。



「誰と待ち合わせしてるの?」

「彼氏だよ」

「どんな人?」

「本屋さんで立ち読みしてる私に「ひとり?」なんて声をかける、こーんなに背が高い人」



 出来る限り腕を伸ばしたら卓郎は吹きだしてけらけら笑った。



よくある愛の話



「それじゃあどこに行きます?」



 買った本をバッグに入れる私にそう聞いた卓郎は当たり前のように手を差しだしてくれる。その大きな手を掴むとまるまる私の手が包まれた。足が長いのに、さりげなく歩幅を私に合わせてくれる。紳士的な振る舞いにさっきの軟派な卓郎が重なって笑いが戻ってきてしまう。まだくすくす笑う私を見た卓郎は理由には気づいてないのか小首をかしげたあと、「アラジン観に行く?」なんて、ちょっと的外れなことを言った。



title by 依存症