がばがば飲んでいることは知っていた。だって私の斜め前に座っていたから。いつも飲むペースも知ってたしお酒の弱さも知ってたから止めようと思いはしたけど、何かやけくそになっているというか止められる雰囲気じゃなかったから何も言わなかった。今日のちひろには関わらずにいようと思っていたのに、滝は無情にも私の肩を叩いたあとちひろを親指で差して「よろしく」とだけ言った。よろしく、と言われても。ちひろの酒癖知ってるくせに。
「ちひろぉ」
リバースだけはごめんだ。せめてトイレに行ってくれ。そんな気持ちを込めながら隣に座ると木目がごつごつしているテーブルに突っ伏したちひろがぴくりとだけ動いた。でも起き上がるつもりはないのか、私を完全に無視している。私は何かしただろうか。一生懸命思い出そうとするけど今まで私がちひろにしてきたことで機嫌を損ねるようなことは思い浮かばなかった。むしろここ最近絡んでもいなかったから、原因なんて分かるはずもない。
「吐きそう?」
背中をさすってみるけど無反応。
「何、本当にどうしたの?吐く?」
さすり続けながらもう一度聞くとようやくちひろが起き上がる気配がして、背中から手を離すとゆっくり起き上がった。顔は真っ赤。飲んだらすぐに顔が赤くなるんだからあれだけ飲めば赤くもなるだろう。
周りの人がどんどん帰って行ってがらんとした部屋に私とちひろの二人が取り残された。お会計に遅れる。中村あたりが遅かったからとか言って多めに払わせようとする未来が易々と浮かんできてちひろが気持ち悪くならない程度にゆする。
「ほら、みんな帰っちゃ」
「好きだ」
う、と続けなかった。真っ赤な顔で私の目をしっかり見据えてあまりにも真剣な顔でちひろがそんなことを言うから。私はテーブルの上の飲みかけのウーロンハイが入ったグラスをちらっと見たあとちひろに目を戻す。何杯目のウーロンハイなの。ちひろは酔っ払ってこんなこと・・・言うね。へらへら笑いながら、スタッフさんに。
「・・・酔っ払いすぎだよ」
「素面だ、ばーか」
そう言って飲みかけのウーロンハイが入ったグラスを私に押し付ける。じんわり熱くなる頬と早く鳴る鼓動のせいで無意識にグラスを傾けると、口の中に入ってきたのはウーロン茶の渋みだけで、アルコールの匂いは一切しなかった。舌の先が痺れていく。
「・・・ずっと、ウーロン茶?」
「そうだよ、悪いか」
「なんで?」
「・・・酔っ払ったふりでもしないと言えないもんでね」
すみませんねぇ、重たい男でぇ、と不貞腐れたちひろはテーブルの下から泡が完全に消えたビールがたっぷり残ってるグラスを取り出してテーブルの真ん中に乱暴に置いた後、私の手からウーロン茶のグラスをひったくってそれも乱暴にテーブルの上に置いた。そして自分のバッグを持って私を置いて立ち上がろうとするから慌ててその手を掴んで引っ張った。だけどドラムで鍛えられた体はぐらりとも揺れず、むしろ私を引っ張り立たせる。ちひろの手が熱い。まるで燃えてるみたいだ。
「待ってよちひろ」
「なんだよ」
「ねえ、好きってさ」
言いかけた声が菅原の声でかき消された。
「かみじょうくんとみょうじさん、早く来ないと結構な金額払わせられるよー!」
「わーってるって!!」
自分の靴に足を突っ込んで乱暴に言ったくせに熱い手は私を離さないんだから、もう。
そこそこデリケートにできている
title by さよならの惑星
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