つまりはただのばかっぷる! 同ヒロイン



鼻歌を歌いながら狭いキッチンの中忙しなく動くあいつは仕事で疲れているはずなのに微塵もそんな素振りを見せずに腹減ったという俺のわがままを受け止めてくれる。私もお腹すいたんですよねー!なんてフォローまで入れて。



俺は、それが気に食わない。



疲れてるなら疲れてると言って欲しい。常に笑ってろなんて言わない。なのに何を勘違いしているのかあいつはいつもへらっと笑っている。同じ仕事場なんだからどのぐらい疲れてるかぐらい分かるのに、なんであいつはずっと笑ったままなんだろう。ムカつく、と同時に切なくなった。しんどい、辛い、というマイナス面を俺に見せないということは、まだ俺を信用していない、そういうことなんだろう。俺だってそのぐらい受け止められる程度のスペースはあるというのに。



「よし!」



満足げな声が聞こえた。ソースの香ばしい香りがする。



「ちひろさんできましたよ〜!」



振り向いたあいつはいつもどおりの笑顔で両手には皿を持っている。俺はテーブルの上に広がっていた雑誌をテーブルの下へ下ろすと、あいつはありがとうございます、とやっぱり笑顔でそう言って皿を俺の前とその向かい側に置いた。



「お箸、と・・・お茶とお水どっちがいいですか?」

「・・・」

「・・・ちひろさん?」



キッチンの方へ向いていた足はゆっくりこっちを向いて近づいてきて、あいつはしゃがみこむとそっと俺の顔を覗き込む。



「ちひろさん?どうしました?」

「・・・」

「・・・あ、やきそば、嫌でしたか・・・?」

「・・・あのさあ」



しゃがみこんでいたあいつの手を引っ張って無理やり床に座らせるとあいつは笑顔からきょとんとした顔になった。何がなんだか分からない、とでも言いたいのか眉を八の字に下げて首までかしげる。まだ分からないのか、と思ったけど俺が何も言ってないから分かるはずないか、と心の中で一人静かにつっこんだ。



「・・・俺って頼りになんねえか?」

「・・・え?」

「いつもいつもへらへら笑ってばっかで、」



慌てて可愛げねえんだよという言葉を飲み込んだ。違う、こんな風に言いたいわけじゃない。もっと、こう、優しく、大人な感じで言いたかったのに、こいつの前では全部上手くいかない。
自分のこめかみを撫でるときょとんとした顔のあいつはまた笑顔に戻って、軽く笑うと少し離れていた膝と膝をくっつけた。



「私がいつも笑ってるのは、ちひろさんと一緒にいるからですよ」

「・・・はあ?」



なんてありきたりな。



「辛い時だってきつい時だってあります。でもちひろさんの顔を見るだけで全部吹っ飛んでいくんですよ、本当に!」

「・・・」

「今日も正直先輩に怒られたしドジもしでかしたから落ち込んでたんですけど、ちひろさんが普通に私の側に来てくれて、腹減ったーって言ってくれて、そこにすごく幸せを感じたんです。落ち込んでた気持ちをかき消すぐらい、大きな幸せを」



そう言ってあいつは俺の手を握るとふふっと笑う。



「ちひろさんを見るだけで辛さもきつさも悲しさも吹っ飛んでしまうぐらい、私はちひろさんのことが大好きなんです」



とんでもない爆弾を俺に投げたあいつは手を離すと立ち上がってまたキッチンの方へ向かう。



「あ、ちひろさん、お茶とお水、どっちがいいですか?」

「・・・お茶」

「はーい!」



元気な返事と聞こえる笑い声に俺は頭を抱えた。



真実はいつも隙間無く



(愛がつまっている)



四周年プチ企画リクエスト ありがとうございました〜!!



title by h a z y