(・・・あれ?)



私のパソコンの周りは最近栄養ドリンクの瓶やエナジードリンク、それに缶コーヒーの空でとっ散らかっていた。片付けないとなあと思いはするけどそこまで手が回らず瓶と缶がどんどん増えていってついに自己新記録の一日でレッドブル三本を更新したというのに。それが綺麗さっぱりないのだ。



(・・・まさか)



ちらりと眠る将司を振り返る。その瞬間さっきまですやすやと眠っていた将司がうっすらと目を開けてごしごしと擦りだした。ただ起きただけだというのに私の心臓は飛び出すんじゃないかという勢いで跳ね上がって脈を激しくする。寝起きぐらい毎日見てるのに、なぜか心臓はうるさいまま。なんでだろう。そう考えてるうちにも脈は激しさを増して将司はゆっくり起き上がる。とろんとした目、少し大きなTシャツの伸びた襟から見える鎖骨、ゆっくり動く喉仏、柔らかいあくび・・・って私はなにをしてるんだ。変態か。なに自分の彼氏を舐めるように・・・自分の彼氏だからいいのか、いや、ああもう!思考回路はショート寸前、なんてテレビでよく聞いていたアニメソングのワンフレーズが私の脳みそを落ち着けるかのように流れてきた。



「・・・ん?」

「あ、」



とろんとした目で私を捕らえた将司はもしゃもしゃの髪をくしゃくしゃとすると首をかしげてもう一度ん?と言った。視線はゆらゆら揺れて時計へ向かう。そして窓。眩しくて目を細めている。その細めた目がまた私を捕らえる。たぶんまだ状況を把握してないはずなのに将司はふにゃふにゃの笑顔を見せて「おかえり」と言ってくれた。寝起きの掠れたその声は妙にセクシーだ。



「お、おかえ、じゃない、ただいま」



動揺しているのがばれないように、と思ってたけど思いっきり動揺してるのがばれるような喋りかたしてるし、いや、その前に動揺する必要なんてないのに、今の私はたぶん寝てる女の子を襲おうとして女の子が起きてしまったときの男の子の気持ちだ。なんだその気持ち。



「あー、体いてー・・・」

「ゆ、床で直接寝るからでしょ。ソファでもベッドでも寝る場所あるのに・・・」

「んー・・・」



首を回しながら大きなあくびをした将司は自分の体にかけてあるタオルケットに気付くと嬉しそうに顔を緩めて私を見た。



「これ」

「・・・寒そうにしてたから」

「ありがと」



その笑顔は、ずるい。とろけるような甘い笑顔。



「今日早いね」

「あ、外回りしてたら、そのまま直帰よしって連絡が来て・・・」

「最近頑張ってたもんな」



あなたのためにね!・・・とは言わず曖昧に返事をして私は爪先と爪先をこすり合わせる。将司はそんな私を特に気に留めることなくタオルケットを元あったとおり几帳面に四つに折ってソファに置いた。そして立ち上がると私の元に来てしゃがみこんで下から私を覗き込む。男の人にすれば少し小さい手が、私の頬をなでる。



「お疲れさま」



頬をなでた手はそのまま私の髪をかきあげて耳にかけた。ああもう、一々ドキドキする。



「・・・うん」



そんなことされた素直に頷くしかできないじゃない。