結局瓶や缶を将司が片付けてくれたのか聞くことも出来ず(聞かなくてもそうなんだと思うけど)私は将司に促されるままパソコンと向き合った。将司はそんな私のそばからあまり離れないようにソファに座ると壁に立てかけていたギターをぽろんぽろんと鳴らす。ゆったりしたBGMに今日の将司は穏やかな気分なのか、なんて思いながらファイルを開いた。(将司の精神状態はすぐに音に出る。荒れてるときはそりゃあもうギターをかき鳴らしてくれる。家壁薄いのに。)



「んー・・・」



穏やかなBGMは心地よく通り過ぎていく。将司の鼻歌も聞こえてきて、気持ちいい。これは、ちょっと贅沢なBGMだな。



「あのさあ」

「ん?」

「この間、学祭にライブしに行ったって言ったじゃん」

「言ってたねえ」

「そしたらこの間偶然そこの生徒の母親と話す機会があったんだよ」

「ほー」

「もちろん学祭でライブしたってこと隠して」

「うん」

「そしたらさ、ライブの感想「全員鼻声だった」って、それだけ」



将司はちょっと不機嫌気味にそう言ったあとびーんと強くギターの弦を弾いたけど私は思わず笑ってしまった。全員鼻声だって。前ライブを見に行ったとき正直私も思ったことだった。今の将司のバンドはまだ曲数も少なくてお客さんを離さないためには喋りが重要だ。なんかちょっとした茶番みたいなことして、それでも拍手はちらほら。普段の将司を知っている私は思わず笑ったけど、確かにあのとき鼻声は気になった。さすが若者。的確。素直。



「・・・なまえまで笑う」

「ごめんごめん」



不機嫌そうに言ってるわりには将司も少し面白かったのか声が笑ってる。いつもならもっと怒るはずなのに。本当に今日は穏やかなのね。



「・・・そんで、ムカついたから鼻声以上にインパクトがある曲作ろうと思ってて」

「へえ」

「とりあえず歌詞だけ考えてる」

「どんな感じ?」

「お前ら全員ぶっころ」

「却下」



しばらくの沈黙のあと二人でお腹を抱えて笑った。