久しぶりのベッドは冷たくて硬い。考えればストッキングを脱いだだけで着替えることもなくパソコンと向き合っていた私は着なれたスーツ姿のままだった。でもそんなの関係あるか。硬いベッドに体を倒す。ばねが私の体を強い力で押し返す。

しばらくしても将司が寝室に来ることはなかった。ただ隣の部屋からカレーの香りとかちゃかちゃと食器同士がぶつかる音がする。たまにかすかに聞こえるのはラップをかける音だろう。




私はいつだって真剣だった。どうしたら将司をこの負の連鎖から抜け出させてあげれるだろう。落ち込んでる将司にどんな言葉をかければいいんだろう。どうしたら喜んでくれるだろう。どうしたら笑ってくれるだろう。

どうしたら、私のそばにずっといてくれるだろう。



負の連鎖から抜け出せてあげる?本当はそんなこと一ミリも思ってないくせに。落ち込んだ将司にどんな言葉をかければいいか真剣に悩むのは優しい彼女面したかっただけで、どうしたら喜んでくれるとか笑ってくれるとか、裏では離れて欲しくないから必死で将司が好きなことを考えてただけ。結局どれだけ考えても出てくる答えは綺麗で純粋なものじゃなくて、私の独占欲から生まれたエゴだけだった。そんなことにも気付かずに勝手に世話焼きで面倒見がいい彼女面してる私ってなんて滑稽なんだろう。涙と同時に笑いさえ出てくる。
ばねが軋む音をすぐそばで聞きながら寝返りを打つ。ぎゅっと体を丸めて目を閉じた。何も考えたくない。だけど頭が勝手にいろんなことを思い出させては私の愚かさを、醜いところを押し付けてくる。




もうやだ!!!!



心の中で叫んだときふいに下腹部にもぞっとした感触を感じた。嫌な予感がする。そう言えば今日何日だっけ。ああ携帯も向こうの部屋だ。取りに行きたいけど、まだ寝室に引っ込んで少ししかたってないのにもう出てきたのかよ、なんてかっこ悪すぎる。



「・・・なまえ?」



下半身の気持ち悪さと自己嫌悪にどんどん蝕まれていってたとき、少し申し訳なさそうな将司の声が聞こえた。こっちに来る。気配で感じた私は勢いよく起き上がって立ち上がった。だけど狭い部屋だから私が勢いよく起き上がって立ち上がる間に将司はもうすでに隣にいた。そして立ち上がった私の肩を優しく押す。



「ちょっと俺の話聞いて」

「トイレ!!」



乱暴にそう言って肩に触れた将司の手を振り払った私は寝室を飛び出した。