好きにならなくちゃいけない、という考えが全てを過剰にさせていたのかもしれない。ピアスやタバコへのときめきも、それは私の周りにそういう人がいなかったからっていうだけで“上條先輩”じゃなくてもきっとときめいていただろう。私が酔いしれたかったのは“上條先輩”じゃなくて“そんな人と付き合う私”だったのだ。だから別にそれは上條先輩じゃなくていいし、大体あの日の朝別の人が登校していたら私はその人のことを好きになると言っていたはずで、なんてことに気づいてしまった瞬間、私の心は失恋したときよりもっと大きな穴が開いてしまった。上條先輩を好きだと思い込んでいた日々が楽しかったのは本当だ。浮いていたライブハウスも飲めなかったビールもメンソールの香りも楽しかった。

 ただそれが上手に恋になれなかっただけだ。



 面と向かって付き合ってと言われたとき、私は黙り込んでしまった。画面上では簡単に流せてたのにいざ音がつけばそれは流せるほど軽いものではなかった。心臓は引きつったように痛くなったしマツさんをただの軽い人として見れなかった。傷心の女子高生につけこもうとしているようにも見えなかった。でもそれをそのまま信用していいのか分からなかったから口が開かなかった。黙り込む私に最後にマツさんが言ったのは、「タバコいい?」の一言だった。

 私の世界はくすんだなんて簡単に片付けられないぐらい真っ暗になってしまって目も当てられない。