例えばディズニーランドでさ、シンデレラ城の前ね、方膝ついてさ、花束なりガラスの靴なり指輪なりをプレゼントしてくれるとか。それか夜景の見えるレストランですっとスマートに・・・これは無いわ。大体だいちゃんスーツみたいなフォーマルな恰好似合わなさそうだし。いや絶対似合わない!これは断言できる!幅に合わせて買ったらジャケットの袖が長かったり?ダメだ笑える。それじゃあえーっと・・・。
一人で眠るベッドの中、現在深夜一時過ぎ。付き合い始めて一年ちょっと、私も年が年だし結婚というものを意識しだすわけでここ最近はどんなシチュエーションでプロポーズされたいかなんてこんなことばかり考えている。ちなみに今のところ一番はディズニーランド。やっぱり憧れる。なぜか周りから冷めて見られがちだけどこう見えて私は結構ロマンチストなのだ。まあでもディズニーランドのプロポーズが一番ないと思うけど。公開プロポーズなんて恥ずかしすぎるし大体ガラスの靴とかどこで手に入れるの?バッグに入れとくの?だいちゃんバッグ持たない派だしなあ。そんでガラスの靴とか貰った後どうするの?飾るの?家に人呼んだら「うわーなにこれー」って茶化されたりするよなぁ。・・・こういうとこが冷めてるって言われるのか。一人で妙に納得してしまって思わず首を一回縦に振る。結局、どんだけ私がプロポーズのパターンを考えたところでだいちゃんが同じ気持ちじゃないとどうすることも出来ないわけだし・・・。なんか、なんだろうこの切なさは。
今日はこれ以上考え込むとたぶんずぶずぶとネガティブな場所に沈んでいきそうだったから私は一回深呼吸をして湯たんぽを足先で確認した後毛布と布団を一気に頭までかけた。ああ、今日はずいぶん冷えるなあ。
数字が赤になっている天皇様の誕生日も関係なく忙しく仕事をしていた私はくたくたの状態で家に帰ってきた。くっそ何が祝日だ。何がクリスマスイブイブだ。ばっかじゃねーの。天皇様のお誕生日を皆さんでお祝いしてくださいな。あ、そう言えば天皇様っていくつになったんだろう。結構よぼよぼだよね。80はいってるかな・・・。
ぼんやり疲れた脳でそんなどうでもいいことを考えていたら家の電気が点いていることに気がつかなかった。玄関を開けた瞬間温かい空気が私を包み込む。驚いて靴を脱ぎ捨ててリビングに飛び込むとそこには暖房をつけてこたつにまで入ってるぽっちゃりした男がいた。
「え、だ、だいちゃん?」
「おおー、おかえりー」
「ただいま・・・じゃなくて!なんでいんの!?」
テレビを見ているだいちゃんは振り向くことなく今日寒いやん!と一言。そ、そりゃあ寒いけどさ!!
「まあいいから座りなさい」
やっと振り向いただいちゃんがそう言ってぐっと腕をこたつの中に押し込む。背中は丸見えだけど体の前の方はすっぽりこたつに入ってるらしい。私ははあ・・・と返事をしてだいちゃんの向かい側、テレビに背を向けてこたつに座る。あれ温かい・・・。
「ちょ、だいちゃん!こたつ点けるなら暖房きっt」
「はい」
こたつから出された手がことんと私の前に小さな箱を置く。白い箱に赤いリボン。首をかしげるとだいちゃんはこたつのなかで私の足をつんつんと蹴りながら顎で小さな箱を指す。
「開けてみなさい、ほら」
「え、え?開けるの?」
「そりゃあ開けなあかんやろ」
・・・それもそうか。くれたものだし、開けていいか。私は目の前の小さな箱を飾るリボンを取って箱を開けた。中にはグレーの箱。マトリョーシカみたい・・・ん?
私がしばらくグレーの箱を凝視していたらだいちゃんが呆れた顔をしてまた私の足をつんつん蹴る。顔を上げるとだいちゃんはまた顎で箱を指す。そして私はグレーの箱を手に取った。重たい。開けようとする手が微かに震えだした。まさか。まさか、まさか。渇いてきた喉にごくんと唾を送るけど全然潤うはずもなく、喉がどんどん引っ付いていく。
「・・・ちょっとタンマ!!」
「は?」
「み、水・・・」
こたつも暖房もついてるせいだ。パサパサする。私はグレーの箱から逃げるようにキッチンへ入る。食器伏せに置いたままだったマグカップに水を注いで一気に飲み干した。それでもどことなくやっぱり喉がパサパサしてるように感じたからとりあえずもう一杯だけ水を飲んでリビングに戻ることにした。こたつの上には重たいグレーの箱とだいちゃんが待っている。
「・・・あー・・・」
マグカップをシンクに置いて自分のほっぺを二回、気合を入れるために叩いた。よし、戻ろう。
リビングに戻ればだいちゃんが暖房のリモコンを弄くってる最中でぴっぴっと短い電子音のあと結局暖房を切られる音がした。
「あ、消すの」
「そんな死にそうな顔で水を求めるぐらい乾燥するなら消したほうがマシやろ」
「あ、そう・・・」
だいちゃんのさりげない優しさが、なんだかくすぐったい。
私はさっきまで座っていた場所に戻って、さらに深呼吸をして、グレーの箱と向き合う。心臓がドッドッドッと荒く動いているのが分かった。私はグレーの箱を開けようと指に力を入れる。ゆっくり開く箱。中には、
「・・・マジかあ・・・」
感心してしまうほど想像通りの指輪。小さなダイヤが三つ並んだ指輪。
「え、なにそのリアクション」
「いや、考えてたやつと同じだあって思って・・・」
「もっと感動的なやつは?」
「ちょっと待って、もう少ししたらきそう」
「見た瞬間こいや!!」
笑うだいちゃんを横目に私は恐る恐る指輪を手に取った。部屋の電気が反射してきらりと光る。
「つけへんの?」
「え、私がつけるの?」
「寒いからこたつから手出したくない」
「え、じゃあ私もこたつに手入れるから中で入れてよ」
「はあ?」
だいちゃんの返事も聞かずに私はずぼっと手と指輪をこたつの中に入れる。そして逃げるだいちゃんの手を捕まえると無理やり指輪を握らせた。
「これ、ここ、動いてるここが左薬指ね」
「はいはい」
呆れたようなだいちゃんの声。そのわりには手つきは優しくて、私の左手を握ると見えないのにそっと器用に一発で左の薬指に指輪をつけた。温かいこたつの中で指輪だけがひんやりしている。だいちゃんの顔を見ると少し恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
「付けるんが恥ずかしかったから直接渡したのに・・・」
「でも付けてくれるんだね」
「言うからやろ」
離された手をゆっくりこたつから出すと三つの並んだダイヤが横を向いた状態ではめられた指輪がまたきらりと光った。サイズもぴったり。シンプルなデザインがかわいい。やっとかなり今更嬉しさや感動が押し寄せてきて胸が苦しくなってきた。
「わー・・・きれー・・・」
「あ、やっときたか感動」
「きた、今きた」
「おっそ!!」
笑っただいちゃんに釣られて笑う。左手の薬指。この指輪が意味すること。
「・・・で、明日取りにいくか」
「・・・何を?」
「婚姻届」
「え、今ないの?」
「だって一人で取りにいくのめっちゃはずいやん!」
「いや普通出しに行くのが二人でさ・・・」
「そういう普通という概念に捕らわれるのはよくないと思う」
「なんじゃそりゃ・・・」
真面目な顔でそんなこと言うから噴出しちゃったじゃないか。ああもう。泣きそうになってきた。でもそれをぐっと堪える。
夜な夜な考えていたようなロマンチックなプロポーズじゃなかったけど、だいちゃんらしいしこれで十分だと思った。ディズニーランドも夜景が綺麗なレストランも必要なかった。少し空気が乾燥してる古い私の部屋のこたつのなか。ん?考えると結構ロマンチックかも。どこにもなさそうだし。
「・・・だいちゃん」
「ん?」
「不束者ですがよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げてそう言うとだいちゃんは腹を抱えて爆笑した。あれ、結構真剣だったのに。・・・ま、いっか。
これからふたりで生きる
四周年プチ企画リクエスト ありがとうございました〜!!
title by she
←