「あー!!」

「どうしたどうした」



スポーツバッグに入れてきたはずのブルーのラベルのペットボトルがないことに気付いたのは筋トレをして素振りをしてサーブの練習をしたあとだった。太陽はギラギラと私たちテニス部を照り付けていて、飲み物がないと発覚した今、私には死しか待っていないということを察する。慌てて友達に助けを求めようとしたけどその友達が潔癖症で回し飲みが出来ないことを思い出した。先輩に頼むのはすっごく気が引けるし私も出来れば飲み物をごくごく飲みたい。ああなんでこんな日に飲み物を忘れるかなあ・・・!昨日夜更かしして遅刻ギリギリに起きた自分を殺す勢いで呪った。
仕方なく水道の水を飲むかと思ったけどテニス部のコートから水道までの距離は遠い。そして今の休憩時間は厳しい部長が顧問に呼び出されてる時間だけだ。部長と顧問は私たちからよく見える場所にいらっしゃる。水道に走って、ここまで戻ってくる間に部長が戻ってきていたらわたしは素振り百回をプラスされるだろう。ああどうしようこのままじゃ死んじゃう。



「みょうじ?」



どうやったら生き延びれるかを考えていたら急に声が聞こえて振り向けばそこにはスポーツバッグを肩にからった山内先輩がいた。山内先輩はサッカー部に所属している先輩でなぜか私に優しい。



「どうしたん?」

「や、山内先輩〜!!!」



スポーツドリンクを忘れたこと、部長が戻ってくるまでに水道の水を飲みに行くのは不可能なこと、友達が潔癖症なこと、全部を半泣きで伝えると山内先輩は苦笑いをしながらあいつ厳しいからなあと言った。
どうしましょう、先輩飲み物お持ちじゃないですか・・・?という視線を送ると山内先輩はじーっと私の目を見たあと何を思いついたのかベンチに座っていた別の先輩の方に歩いていった。そしてすぐに戻ってきた。



「ほれ」



そう言って急に頬につけられた冷たい何かに悲鳴を上げると山内先輩が声を上げながら笑う。目を開けると眩しい笑顔を向けた山内先輩が黄色い液体が入ったペットボトルを私に差し出した。



「間違って買うてん。やるわ」

「先輩・・・!」

「あと、これも」



ペットボトルを受け取って飛び跳ねていると山内先輩は私の片手を引っ張って手のひらに飴玉を落としていった。レモン味の飴。顔を上げると山内先輩がくしゃくしゃと頭を撫でてくれる。ちらりとベンチに座っていた先輩の方を見るとじとーっとした目でこっちを見ていた。山内先輩は多分最初はあの先輩にこれをあげたのだろう。



「練習頑張りや」



ひらひら手を振ってベンチの方に歩いていった山内先輩が爽やかで思わず見惚れてしまった。胸の辺りがきゅんとする。・・・きゅん?



「・・・なまえ、なまえ!」

「え?」

「部長戻ってくる!」



きゅんの正体を必死に考えていたら部長と顧問の話し合いが終わったらしく私は慌てて先輩から貰ったペットボトルを開けて水分補給をした。微炭酸のはずなのに酷くのどが痛くなって思わずむせたけどそれどころじゃない。スポーツバッグにペットボトルとレモン味の飴をつっこんで置いていたラケットを手に取って一列に並んだ。ああ、口の中がレモン味で爽やかだ。まるで山内先輩みたいな・・・あれ?



人工的なレモン味の初恋



「山内先輩かっこよかったね」



潔癖症の友達がこそこそとそう言った瞬間、私の顔はかーっと熱くなり、何がなんやらさっぱりわからなくなるほど混乱して、ボレーを失敗して額で思いっきり部長の早いボールを受け取った。



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