call my name
校庭でじゃれ合う男女を見つけ、あっ、と小さく声を上げた。
練習帰りなのかお互いユニフォームに身を包み、所々泥が付いてる。
女の子はアンジェリーナ。
私の親友。
男の子は、フレッド・ウィーズリー。
私の恋人、だった人。
1年生の頃、何故グリフィンドールに選ばれたのか分からないくらい、私は浮いていた。
友の為や信念の為の勇気なんて持ち合わせてなくて、おっかなびっくり。
いつも周りの顔色を伺ってた。
根暗、暗い子、臆病者。
そんな言葉がぴったりだった私に、フレッドが悪戯を仕掛けてきたのが始まりだった。
戸惑い、ただただ泣くしか出来なかった私と、その時はあまり話した事もないルームメイトだったのに猛烈に怒ってくれたアンジェリーナ。
すぐにジョージとフレッドとアンジェリーナと私は仲良くなった。
目線が怖くてカーテンのようにしていた前髪も、アンジェリーナに頼み短く切ってもらった。
眉上の短くアシメトリーにしてある前髪は、今でも私のトレードマーク。
ロンドンの空は今日もどんより。
気持ちも滅入る。
こんな日はさっさとシャワーを浴びて、寝てしまおう。
窓の外から聞こえる楽しげな声に背を向けて、寮へと歩き出した。
「レイチェル」
甘みを帯びた声で彼が私を呼ぶ。
鍛えられた体で力強く、でも柔らかく抱きしめられる。
ああ、フレッドの匂いだ。
なんて幸せな夢だろう。
もう、こんな日々戻る事はないのに。
ゆっくりと目を開けると、時計の針はまだ4時を指すかどうかの所だった。
変に目が冴えてしまい、ルームメイトを起さないようにそっと部屋を出る。
暖炉に火を灯し、その前のソファーに深く腰掛けた。
持ってきた毛布に身を包んでも、冷えきった空気を防いではくれない。
フレッドとは、5年生からずっと付き合ってた。
相手が女の子だろうが、基本的には距離が近いフレッドには何度ヤキモチを焼いただろう。
でも、「レイチェル」と他の子とは違う、甘みを帯びた声で呼んでくれるだけで私は満足だった。
大好きな人。
大好きだった人。
いつからか私の言葉は上の空。
目線はアンジェリーナを追うようになった。
甘みを帯びた声で呼んでくれなくなった。
「フレッド」
「んー?」
「……別れようか」
その一言だけは虚しく宙に消えてはいかなかった。
驚いたようにこちらを見るフレッドに、余裕があるような笑みを浮かべる。
「別れよう?もう私は大丈夫だよ」
「レイチェル、、ごめんな」
心の準備をする時間は充分過ぎるほど貰った。
もう、私は1年生のただ泣くしか出来なかった女の子じゃない。
せめて、最後は最高の笑顔で別れたかった。
それが私の初恋が散った話。
いつかよくある青春の1ページになるんだろう。
でも、今は、「あの時こうしてれば」と考えずにはいられない。
鮮明に愛おしさは残り、心を縛り付ける。
思い出にするにはまだ遠くて、切なさだけが淡く残る。
call my name
(どうか、また、甘く私の名前を呼んで)
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