しとしとと、多分な湿り気を含んだ雨粒が、瓦屋根の尾を滑り落ちている。つい先日瀞霊廷を襲った大雨は長らく止む気配を見せなかった。常であれば穏やかなせせらぎを耳にすることができる十三番隊の隊首室を兼ねた雨乾堂を囲う湖にもぽつりぽつりと雫が落ち、丸い重ね窓の内側から外を見る浮竹の目には、どこか湖のかさが増しているようにも見える。昼時、普段通りに清音による検診を終えた浮竹が、ゆっくりとした動きで布団に臥していた身体を起こして、小さく息を吐いた。調子が良ければ調子が良いなりに仕事がこなせただろうに、今日の浮竹はどちらかといえばあまり体調がよろしくない。何百年も繰り返してきた浮竹の命にはどうしようもない波があり、今更そんなことを恨むようなまでもないが――十三番隊として自分の下で頑張ってくれている部下たちのことを思えば、浮竹はこうして、言うことを聞いてくれない自分の身体を憎むしかないのだ。
雨上がりの瀞霊廷を眺めている。浮竹がぼんやりと見上げた薄色の空に、覚えのある霊圧が重なる。
「浮竹隊長」
薄墨に硝子を重ねたような、曇天の夜半のような色をした髪が、浮竹の視界に映った。瞬いた瞳は月色。目元は少しだけ涼やかなように形取られているが、彼女の心底の心優しさをあらわすように丸まった瞳が、目じりの持った怜悧かつ冷徹な印象を薄めている。そして彼女の姿が突如雨乾堂に現れたことについてあまり驚いていないらしい浮竹に対して拭いきれない不満をあらわにした彼女の右手には、浮竹が京楽とよく食べている和菓子の銘店の紙袋。
小さく霊圧が揺れ、そのあと瞬きをした瞬間浮竹の前に現れた彼女の癖を、浮竹はよく知っている。機嫌が悪そうな様子を見せつけるようにする彼女に、仕方がないなと笑った浮竹が、小さな声をこぼした。
「初谷。会いに来てくれたのか」
「そうだよ。浮竹隊長がひとりで寂しいかなと思って。ぼくに感謝してね」