体温を知るまで 前編


(※黒田君も夢主もやや変態臭いので注意)





それは突然すぎる出来事だった。
恋愛が始まるにあたり、アレコレきっかけはあるだろう。けれどアレは衝撃だったのを覚えている。そりゃあどこかのアニメ映画のように空から降ってきたところを抱きとめたとか、パンを咥えながら遅刻しないように走って登校してたところ曲がり角で正面衝突しただとか、それらに比べればいささかインパクトは劣るところだが、まぁなんだ、一言でまとめると『彼女の下着がうちにあった』という事だ。






とある日曜の朝。その日は珍しくサークルもバイトも入ってなかった。この何日かぶりになる全く予定のない一日、どう過ごしてやろう。来週締め切りのレポートは書き終えてある。新発売のフラペチーノは既に飲んだし、登りに出るのも悪くはないが少しゆっくりしたい気分でもある。今日の天気は快晴、埃だらけになってそうな布団でも干すかと窓の外を青をぼんやりと眺めていた。そんな風に巡らせていた思考は、レースのカーテンの向こう、あるブツを目に入れてしまったせいでピンクに変わってしまった。

先に言うが現在オレは彼女がいない。現在、というか実は居たことがない。なので当然こんなものがオレの家の敷地内にあるはずがない。なのにどうしてこんなものがあるんだ。どう考えてもアレは絶対に男には必要のないものであるし、勿論オレの趣味でもねぇ。
目を疑ったが、確かめる為にベランダへ近づく。小狭いベランダに落ちているのは薄いピンクの、えーと、胸支えるやつだ。…まぁ、ブラジャーってもんがそこに寂しく落ちていた。

レースのカーテンを勢いよく開け、ベランダへのドアを開ける。そして俺のベランダサンダルの上に落ちているのはやはり紛れもなくブラジャーだ。薄いピンクの生地にレースだかで綺麗に飾られているブラジャーを辺りを見渡しながら救出した。いや、誰も見てねぇの分かってっけどこんな姿なんて見られたくもねェ。

レースのカーテンをしめて、救出したブラジャーを眺めた。きっと干してあったのが飛んだのだろう、天気は良いけど風あるしな。ここへの経緯は大体想像ついたのだが、問題はこれの持ち主だ。これを返そうにも手当たり次第にこの淡いピンクのブラジャーを持って、他の部屋に訪れて"これ貴方のですか?"なんて出来るわけがねぇ。つーか、んな事したら変態に間違われるのは確実だ。

清楚っぽい雰囲気漂うブラジャーを眺めながら頭を過ぎったのは、"みょうじセンパイのならスゲェラッキー"という事だった。約1年前にここへ引っ越してきて周囲の部屋にドキドキと胸を高鳴らせながら挨拶へ行った時だ。上の部屋の方に挨拶を行った際に、綺麗な人が出てきて嬉しかっただつー事だ。そんなみょうじセンパイとは、まさか大学、そしてサークルまでも一緒だったのにはテンション上がるって話。アパートでゴミ出しの時にすれ違う度に声をかけてくれるみょうじセンパイは、サークルで会ったりする時とは違って気の抜けた格好をしているけれど、また何かを唆った。

…これマジでみょうじセンパイのだったら。いやいや、そんな訳ねェよな。
悪いと思いつつ、みょうじセンパイを思い出して、そして胸は確かしっかりとあった気がするなと大変失礼な事を考えた。握り締めたブラジャーのツルツルと滑るタグを指で引っ張った。
E70…。ヤベェ…デケェかなと思ってたけどみょうじセンパイこんなにあったのかよ。センパイのだと決まった訳じゃねぇのに思わず掌でにやけそうになる口元を覆った。

一人暮らしは人を自由にさせるというのはあるのだと思いたい。みょうじセンパイのだと思ったらクルものがあって、手に持っていた淡いピンクのブラジャーを鼻に寄せた。スンと柔軟仕上げ剤のほのかな香りを吸い込んだ。すこし甘めででも清潔感漂う香りは、みょうじセンパイとすれ違った時に時折感じる匂いだった。
確証めいたブラジャーの持ち主。なら、こんな変態臭い行為をやめなければならない。だけれど鼻に押し当てたブラジャーを離すことなく更にとばかりに匂いを嗅いだ。おそらくいつもこのブラジャーに包まれている胸は柔らかくて温かいのだろう。きっと触ったらオレの手から溢れそうなくらい大きいだろうし、だけど先端が敏感だったら更に良い。頭の中では、みょうじさんがこのブラジャーとセットな下着を着用したままベットの上に寝そべっている。恥ずかしそうに胸を覆う仕草はこちらを煽る事しかしねぇんだ。みょうじセンパイ時々抜けてるしな、そういうのも知らねェんだろうし、だからこそブラジャー落としちまうんだ。現実と妄想が行ったり来たりしながらもブラジャーに鼻を埋めたままである。そんな事を考えていたら、自然と息が荒くなってきてしまった。そして身体の中心も。
自然に手が動く。下のジャージに手を伸ばしボクサーパンツの下からガチガチに立ち上がってしまった雄を取り出した。

「はぁ…はぁ…っ、みょうじセンパイ…っ」

手で扱きながら、脳内ではこのブラジャーを着けているみょうじセンパイの胸を鷲掴みで揉みしだく。掌の中でブラジャー毎形を変えてる胸と快感で歪む顔。やっぱりこのブラジャーはみょうじセンパイによく似合ってる。

ブラジャーを嗅ぐことはやめて、堪らずに、ちんこを汚れないブラジャーに擦りつける。

「ハハッ…やべぇ…」

レースがザラザラと先端を掠めていく。ザラつく刺激は、腰から下を時折震わせた。透明な我慢汁がブラジャーへと染み込んでいくのに罪悪感を覚えた。…っ、もし返せたらオレの精液染み込んだブラジャー着けるとか…マジで興奮すンだけど。ブラジャーに先端を押し当てたまま扱いていけばさらなる快感を与えてくれる。頭の中ではみょうじセンパイがイヤ、やめてとやらしく喘いでいるのに関わらずだ。ノリに乗ってるオレのあたまに"イヤっつーけど、本当はイヤじゃねぇんだろ?"なんてやっすいAVか!というセリフが頭に過る。

一人寂しい自慰も今日はみょうじセンパイと一緒だ。マジで頭湧いてるわ。でも最高に気持ち良い。ブラにちんこを押し当てながら扱き続ければ、快感の波が止めどなく押し寄せてくる。
…っ!やべぇ!!
イク瞬間にここに出したらさすがにマズイと我に返り、枕元のティッシュに手を伸ばしたのだが正直に言うと間に合わなかった。掌、ブラジャー、ティッシュと全てに溜まっていた精液で汚れてしまった。

「…、やべ…」

数枚引き抜いたティッシュで掌を拭きながら、見下ろすのはオレの精液が少しかかってしまったピンクのブラジャー。すっかりと我に返ってしまった今はコレをどうするかしか考えられない。洗うか。そう思った時、"ピンポーン"という来訪者を告げる音が部屋に響いた。

反射的に放り投げてあったパンツとジャージを慌てて履き直す。バタバタと慌てて玄関へと向かうので、所々に身体をぶつけてしまった。そしてベタッとドアに張り付くように覗き穴に目をやった。ドアの向こうはある意味想像通りの人がそこには立っていた。

「黒田君いる、かな?」
「っ!!……、ぁ!はい!今開けます」

アンタなんでタイミングよくそこに居んだよ!?口から出そうになる言葉を飲み込んで、渋々とドアノブに手をかけた。重いドアをそっと開ける。するとオレの顔をみてホッとするかのようなみょうじセンパイに罪悪感が押し寄せる。

「あの、ごめんね、休みの日に…。突然で悪いんだけど、」
「ハイ?え、なんですか?」

要件なんて想像ついてるくせに白々しいにも程あるだろオレ!今までの所業の所為で背中なんて冷や汗でビッショリだ、みょうじセンパイ帰ったら着替えねぇとマズイレベルだ。
そして、目の前のみょうじセンパイはモジモジと手の行き場がなさそうであった。

「ぅ〜…すごく言いにくいんだけど、ぶ、ブラが黒田君家のベランダに落ちてないよね!?…多分風で飛ばされちゃったみたいで…ないの…」

唖然とするのは当たり前だ。予想通りすぎて何も言葉が出てこねぇ…。どーすんだよオレ。今の部屋の惨状は、散らかった精液拭き取ったティッシュが散乱しているし、その中でも問題のブラジャーも混ざっていて言い訳不可能。とりあえず、何か言ってみょうじセンパイを退却させなければならないのは明白だ。ドアノブを持つ手に力が入った。
そんな事を考えていた所為で無言で固まっていたオレを不思議に思ったのだろう。

「…ぇ、と…あの…は、恥ずかしいけど見て?、この柄のブラなんだけど…やっぱ落ちてないよね…?」

みょうじセンパイは辺りをキョロキョロと見回してから、着ていたスカートの裾をコッソリと上げた。目に飛び込んできたのはあのブラと同じ柄のパンツを穿いているみょうじセンパイだった。白い大腿から続く股はあの布切れに隠されている。少し盛り上がったところが恥丘だろう、よく分からねェけどすげぇヤラシイ。見ていれば透けていくんではないかというほどに凝視していた事に気付いていなかった。サッとスカートを戻され、思わずみょうじセンパイの顔を見た。

「…も、黒田君そんなに見てくるのは、ダメだよ…は、恥ずかしい…」
「っ!!す、スイマセン!!あ、う、ウチにはありませんから!失礼します!」

顔を赤らめながら、叱ってくるみょうじセンパイに耐えきれなくなって、謝りながらドアを閉めた。閉めた瞬間、脳裏に焼き付いたあの姿また思い出す。あ、やっぱり似合っていたなとか思いつつ、このブラジャーを返しそびれた事、洗濯しないといけない事が渦巻いた。頭を抱えたまま、動けなくなってしまったオレが次にすべき事は何なのかなんてまだまだ考えつかない。
ましてや、オレが勢いよくドアを閉めた後みょうじセンパイが"分かりやす、セットのものを今穿いてるの意味に気がつかないとか童貞くんなのかなぁ…。ま、あと少しでイケそうだね"と笑顔で呟き、スカートを翻して部屋に戻って行った事なんて知るわけがないのだった。








(thx→ネタ案&出だし文 : "欺くも"豺さん)