体温を知るまで 後編
(※続き ・黒田君の扱いが酷いので注意)
アレから1週間。
オレの手元には未だに淡いピンクのブラジャーがある。もちろん、しっかりと洗ってあるから、仄かな洗剤のニオイを放っている。しかし問題となるのは、タイミングである。いかんせんこの前は"ないです"と言い切ってしまっている。
見つめる先は例のブツが入った茶色い紙袋だ。ぶっちゃけ言うとあのブツの所為でしこたま己に手を伸ばしたのは白状しよう。あの日から、そりゃみょうじセンパイ見りゃ自然と揺れる胸に目が行くのは当たり前の事だ。その上サイジャ着て胸がパンパンと張り詰めたサイジャ姿を見た日はこちらの下半身が張り詰める勢いだ。
そんなオレの戸惑いに気付くわけもねぇみょうじセンパイは、いつも通りに世間話を持ちかけてくる。
「ね、黒田君。昨日作ったカレーあるけど食べに来る?」
サークル終わりで各々話したり、タオルで汗を拭いたりと騒ついている中でセンパイに声を掛けられた。少しだけ耳元に近付くかのように背伸びしてくるみょうじセンパイ。この身長差だとどうしても谷間を見下ろしてしまう形になってしまうので目は逸らした。あれから、いつもどこみて話してたかを忘れてしまったみてぇで情けねぇ。いつもよりも少しだけ距離が近く、そして潜めた声にドキッとしながらも素直に"食べます!"と即座に声を出した。予想外に大きな声で応えてしまったので、周りの奴等の目が痛い。視線を受けて少し慌てるオレを見て、口元に手を当てクスクスと笑うセンパイだ。
「ごめんね、多く作りすぎちゃったんだよね」
「…まぁ、もらえるもんなら不味くても食べますから」
「あ、黒田君ヒドイ!結構美味しく出来てあるのに」
何かを掻き消すかのようにつれない言葉を言ったオレに対して、艶やかな唇を突き出し言葉を返してくるセンパイの姿。後輩に気を遣わせないこう言う気さくなところは正直な事言って好きなところだ。お陰でオレらみてぇな後輩の支持は厚い。そう、今日オレセンパイの手料理食いに行くんだと声を高らかとして言いたい気分だけれども、ンな事ほざいたら背後から刺される可能性がありそうだ。だからその喜びはグッと奥歯でかみしめた。
"じゃ、また夜待ってるね"
耳元でンな事言われたらオレどうしたら良いんだよ!そしてやはりあの清潔感あるあの香りが鼻をかすめた。いや、別に夕飯食いに行くだけだから…、下心なんて欠片もねぇからこれ以上は考える事はねぇけど、けど。けど…も、もし万が一、盛り上がっちまったらどうするか。ありしもない考えを浮かべながらも、とりあえず水道で顔洗って頭を冷やす選択をした。
…
手には紙袋、そしてコンビニで買った新作のスイーツってやつをぶら下げる。っ、紙袋無かったら同棲してるっぽくね?何てくだらねぇ事を考えてアパート部屋を出る。ブラジャーはサラッとベランダ落ちてあったと伝えて軽く渡す…やたらかしこまったりしたらダメだろう、あくまで自然な感じでいこう。頭でのシミュレーションなら何度も行った、準備は万端だ。
スンッと肩に鼻を寄せる。勿論オレはセンパイと違ってなんのニオイもしねぇ。サークルから帰ってシャワーも浴びたし、ついでに歯も磨いた…部屋上がるっつーなら臭いままとかぜってェ嫌だしな。
日が落ちてからの暗い階段、やたら足音が響くアパート階段は俺の心拍を上げさせる。目的は俺の部屋の上、すぐそこな筈なのに階が違うだけで別の景色にみえてしまう。みょうじセンパイの部屋の前にきてさり気なく前髪を整えてからインターホンを押した。
「黒田君〜?」
「ハイッ!そ、そーです」
ドアの向こうから人が近寄ってくる気配に一歩下がる。ドアが開けられ、髪を適当に1つで纏めたみょうじセンパイが顔を出した。"待ってたよー"なんて明るい声をかけられれば、俺の僅か、僅かな緊張も和らぐもんだ。つーか、ルームウェア可愛すぎじゃん。少しフワフワする生地のショートパンツから伸びる大腿はこの間みてぇに白くて柔らかそうだし、上のパーカーもセットなのだろう似合っていた。
「あ、オレデザートにって買ってきたんですよ」
「さっすが黒田君ー!気遣いの男!」
「何ですかそれ」
「え、思った事言っただけだよ」
不埒な事を考えそうになる頭を律して、コンビニ袋を渡す。オレが渡したコンビニの袋を両手で持ち上機嫌で冷蔵庫にしまうみょうじセンパイを見て、やはり買ってきて成功だと感じた。問題のブツはご飯の後にしよう。部屋に通され、ご飯準備するからと部屋に残される。1人か…。玄関までは入った事はあるけれど、このセンパイの部屋に入ったのは初めてだ。思わずキョロキョロと辺りを見渡しながら綺麗にしてんだなとか少しくらいはファンシーな部屋だと予想してたけれど予想外にシックであった。
「ごめん、黒田君もう食べれたりする?カレー温まってるんだけど」
「あ、食べれます!余裕です」
突然の声に肩を揺らして反射的に応える。これはもう長居出来ねぇ、言葉にならないけれど、みょうじセンパイの部屋に2人でいる事という事実がオレを駆り立てる気がしてならねぇ。そう決意した時に"じゃ、食べよー"とお気楽な声とともに登場したカレーライス。気になるセンパイの手料理とか、食ったらオレ幸せで死ぬんじゃねぇかな?不味くても食べるとか昼間言っちまったけれど、これが不味い訳がなかった。美味いと言いながら、食べるオレをみてクスクス笑うみょうじセンパイ。実を言うと会話続くかどうかとか少しだけ危惧していたが、そんな心配は皆無だ。話題なんて探さなくても、みょうじセンパイが話を振ってくれたり、それに対した俺の話も自然と出来たりと…え、実は相性良いんじゃねぇか?なんて自惚れ始めていた。
しかし今飲んでい氷水が入ったコップを置けば、"楽しかった"という気持ちを軽く伝えて去らなければならないだろう。もう少し2人きり悪くねぇなんてのんきな事を思ったオレに天罰が下る。
「…あ!そう、気になってたんだよね。この紙袋なぁに?」
「え!!ア…」
例のブツが入った紙袋に手を伸ばすセンパイ。中身を確認するかのように不思議に眺めるセンパイ、完璧にタイミングをしくじった。
「あー、えーっと、スイマセン!あのやっぱ落ちていたんで…!あの時確認出来なくてスイマセンでした!」
「え…?」
あーぁ…ここまでのオレの好印象がこれで木っ端微塵じゃねぇか…。帰りたい衝動に駆られながら手渡す紙袋。そしてその中身を取り出すみょうじセンパイは少し驚いてる。オレらの間に晒された淡いピンクのブラジャー。あ、やっぱみょうじセンパイに似合いそうだとか余計な事まで考えてしまった。
「…、ね、黒田君。これもしかして洗った?」
「え!何で…!?」
「黒田君は知らないかもしれないけど、ブラ洗う時は洗濯ネットに入れないと形歪むんだよ、すこーしだけ歪んでる」
「…」
マジかよ。オレをジトッと見つめてくる瞳は何を考えているか分からない。…さっきまであんなに楽しかったのにこの落差…。いや、1週間前のあの時にやらかしたのはオレだから、こうなっても文句は言えねぇ。
「…すいませんでした」
「全く…、何で洗ったの?」
「ぇ!あー…落ちた時に埃ついたかな、と」
馬鹿正直に"オレの精液付いたから洗いました"とか言えるわけねぇ。申し訳ないとは思っているからオレを開放してくれと目の前のみょうじセンパイに願った。ふぅんとオレの顔とブラジャーを見比べながら、返事するみょうじセンパイは、この苦しい言い訳が通じているかいないか全く読めない。
いつの間にか正座しているオレの耳に息がかかる。その温かさにビクッと肩を揺らした。
「ね、本当は?正直に言ってくれたら怒らないよ?」
悪魔の囁きとはこの事だろう。そして生つばを飲み込むってこういう事だ。ゴクッと喉が鳴った事はみょうじセンパイにも聴こえたらしい。クスッと笑うセンパイをみて、もうバレている事を察した。
「、あの、本当にスイマセン」
「良いって、落としたは私だしね。ゴメンねいじめて」
「いえ」
間接的にだが変態行為をした事を謝った。が、しかしみょうじセンパイのオレの印象は最悪だろう。こうして呆れたように笑ってくれるだけでも女神に相違ない。あぁ…色々終わった…。憔悴しきったオレは、とぼとぼと下の部屋に戻ろうと正座を崩した。
「黒田君」
「っ、ハイ」
「このままだとわだかまりって言うのが残ると思わない?っていうかこのまま帰したら黒田君明日から話してくれなそう」
「ぅ…、まぁ…そうかもですね」
"という事で、罰としてこのブラジャー着けて!"
あの時のオレはどうかしていたと思う。それで笑いとばしてみょうじセンパイとの関係を修復出来るなら良いかななんて気軽に考えたのだ。"はぁ"と一言返事をした時、みょうじセンパイがニッと笑った理由は分からなかった。上の服を脱いでと言われ、着ていたTシャツをみょうじセンパイの目の前で脱ぎ捨てる。チクチクと視線が肌に刺さる気がして気まずい。
「さすがー、きっとカッコいい身体にはよく合うよ」
「馬鹿にしてます?」
「やだ、してないよ〜」
満足そうに喜ぶみょうじセンパイを見て少しだけ気楽になれた。ハイと軽やかに渡されるのはあの淡いピンクのブラジャーだ。あれなんでオレはこんな事してるんだろうと我に返り、断ろうとみょうじセンパイの顔を見ると、何も喋らないけれど期待の眼差しを向けてくる。いやでも冷静に考えておかしくないか?オレは今、理由はあろうともみょうじセンパイの部屋で上半身裸になり、その部屋の主のブラジャーというものを付けようとしている。ブラを持つ手に力が入る。
「ふふ、着けてあげよっか?」
「いや、いいですから!」
伸びてくる手を制すると、えー…という不満足そうな声を出すみょうじセンパイ。もうこれ以上の辱めはやめてくれとなりながら、明日からもみょうじセンパイと話したいが為にブラの紐を手に通した。
「あの…何が楽しいんですか」
「え、黒田君楽しくないの?」
「全くです。」
チクチクと刺さる視線が痛くなってきた。何しろみょうじセンパイの目線は勘違いしそうになるほどに熱いのだ。みょうじセンパイの部屋で行われる謎の行為はいつの間にやら理性を飼い慣らされていたみたいであった。嫌々ながらも両腕を通して無い胸に当てる。当たり前だけれどE70なんてガバガバだ。女の人ってすげぇ。というか止めときゃ良かった、辱めも良いとこだ。なんで憧れの人のところで精液染み込んだブラジャーを着用してるんだろう。
「…っ、これで勘弁してもらえませんか…?」
「だーめ。しょうがないからホック止めてあげるよ」
「え」
みょうじセンパイは背後に回りこんで止めるのかと思いきや、前から抱きつくかの様に腕を回される。胸元に当たるルームウェアやまとわりつく腕に神経を尖らせる。こんな状況じゃなきゃご褒美だ。そしてそれに伴い気付いた事がある、いつの間にか身体の中心が硬くなっていた事だ。いや、これは今これだけ近いからしょうがねぇよ。僅かに前屈みにならざるおえなかった。そしてグッとキツくなる胸元、に声を漏らした。
「ん、似合ってる」
「うれしくないっす…」
「そ?でもコッチは悦んでるみたいだね」
「っ!」
「気付いてなかった?着けるってなってから凄かったよ」
身体が離れて意地悪な事を言うセンパイを睨んだ。股間の状況がバレていたなんて知らなかった。つか、オレどうなってんだよ!唖然とするのに股間の硬さはとれない。
「…黒田君、見ててあげるからして良いよ」
「っ、も、これ以上嫌われたくないですから…っ」
「大丈夫、嫌わないし、私が頼んでるんだよ?」
「いや、でも」
そっと服の上から触れられてしまい、それだけで出そうになる。何しろあのセンパイがオレの股間を触るとか夢でもなかった。
「しょうがないなぁ、ぁ、じゃぁ良い事教えてあげる。実は今日は黒田君のブラと一緒なんだよ?」
片脚を立てたみょうじセンパイ。そのショートパンツの隙間からはあの時見たこのブラと同じパンツがチラ見していた。そしてダメ押しの"ね?"という甘い囁きに手は動いた。スイマセンと一言漏らして下半身に手を伸ばした。しかしこのブラジャーと同じ柄のパンツを穿いたみょうじセンパイの目の前で自慰行為を行なっていくのはさすがに抵抗があった。90度右に向き、手慣れたように性器を上下させる。盛った猿かよオレは!まじでオカシイんじゃねぇか。みょうじセンパイのブラジャーつけてちんこ硬くして、その上目の前でシコるとかありえねぇ。オレを舐めまわすかのように纏わりつく視線に全身を犯されていく気がしてしまう。カッコ悪りぃ。なのに何で手は止まンねぇんだろう。
「はぁ…はぁ…」
「我慢汁すごっ」
「っ、言わないで下さい」
手と性器の間に透明な汁が潤滑油となってグチュグチュと音を立てる。
「手伝ってあげるね」
みょうじセンパイは何を思ったか、胡座で自慰行為をしている俺の背後から抱きついてきた。背中に感じる2つの膨らみ。それが単なるルームウェアだけというのに今気付いた。
「もう…黒田君が返してくれないから、今日つけられなかったじゃない」
「っ、ぁ…スイマセンっ!」
全神経を背中に集中させていた所為だ。前へ回された腕には気付いていたけれど気付いてなかった。オレの着けているブラジャーの上から胸を揉んできた。胸なんかねェからと言葉を発しようとしたのだけれど、出た声は熱い吐息であった。
「ふふ、黒田君ブラつけて乳首弄られて感じちゃうとか女のコみたいだね」
「っ、やめてください…っぁ…」
「黒田君にこんな趣味あったなんて、なんだか可愛いね」
「はぁ…、くっ…みょうじセンパイっ…」
こんな状況で違うなんて言葉は耳元で囁かれる悪魔の言葉に対して言えなかった。カパカパなブラの上から手を差し込み、人差し指で胸の先端を優しく嬲るみょうじセンパイ。胸へと回される細い腕を振りほどくこともせず、オレの上下する手は止まらない。下半身までに響く様な刺激は初めての刺激だった。自分がこんなところを感じるとか知らねぇ、悔しくもそれに耐えられなかったのだ。渦を巻くように溜まっていた熱を身体を震わせ、吐き出した所は日常での自慰行為通りに己の手の中であった。ジワリと伝わる自分の体温が止めどなくきもちわりィ。
「気持ちよかったんだ?いっぱい出たね」
「っ、ハイ」
「ふふ、素直でよろしい」
背後から耳をペロリと舐められて、先端から最後の一雫が排出された。背後で微笑む顔なんて未だに見れないのだった。