愛も希望もないけど欠片は下さい。


昔の私を考えると随分奥手だったと思う。絶賛思春期だった中学生活の中で男子への嫌悪感を抱いた私は、男との距離をとるようになっていた。けれど、高校に進学して全く新しい人間環境は徐々に男子への苦手意識がなくなっていった気がした。
大学、社会人ともなれば、あれは思春期だったからと一括り出来るくらいに話せる様になった。これも1つ大人になったという事か。むしろ今じゃもう笑い話だ。

高校時代を思い出すと少しだけ心残りがあった。私が今くらいに人と話せたなら…と思う事がある。高校時代、同じクラスであったある男子に心惹かれていた。所謂グループが違っても、たとえ私が口下手でも、男女の違い分け隔てなく誰とでも接する明るい彼は、教室の中心であると共に高校生活の憧れであった。それでまた部活ではストイックな部分を持つのだから、余計に魅力を感じたのだ。
憧れと恋心は違うものだと思う。けれどあの時を考えると胸が痛んだり、もう少しだけ頑張れたら良かったなと後悔するあたり少しの恋心は持っていたかもしれない。

だからこの同級会はとても楽しみにしていたのだ。
久しぶりにあった手嶋君は、あの時とは変わらずに接してくれるし、お酒の勢い相まって面白おかしく話をした。私の事を"変わったよなー"という手嶋君に"色々吹っ切れました"と笑って答えるくらいに。手嶋君は高校時代よりも少し背が伸びた様に見えたし、この表現は大人になった男性にとっては失礼かもしれないけれど前よりも男っぽくなっていた。けれどその変わらない話しやすさは健在だった。何よりもあの時とは違ってたくさん話せた事が嬉しかった。







「いっ…」

僅かの頭痛と身体のダルさで目が覚めるという何とも最悪な目覚めだった。しかめた顔で目を開ける。いつもと同じ光景、近くのテーブルに乗っている化粧品や見慣れたテレビ、目覚まし時計…は1つもなかった。それよりもいつもよりもふかふかの広いベッドにやたら広い部屋、無駄な間接照明、よくわからない冷蔵庫、何故か置いてある本棚には漫画本が詰まっていたりする。不思議に思い、身体を横に向け上半身を起こしたその目線の先はヘットボードを捉える。そこには律儀に可愛らしいカゴに入った四角い物体Xだ。四角い包装の中に浮かび上がる丸い形がやたら強調されている。

「え…」
「おー、なまえ起きたか?」

無意識に出た私の言葉に反応する様に言葉が返ってきた。この部屋とおそらく玄関を繋ぐスペースで笑いを噛みしめる様な表情をする男がいた。

「て、て、て…て、手嶋君…」
「"て"ぇ言い過ぎだろう」

目の前の事に頭が追いつかない私はその中で自分の身体が何も身に纏っていない事を知る。必死に薄い布団を胸に当て、頭の中を整理しようとするのだがいかんせん頭が働かない。あらぬ事をしでかしてしまったのだろうか、全てはそこなのだが聞くに聞けない。
半裸の手嶋君は備え付けのティーパックを開けていた。下に履いてあるチノパンは昨日同級会で着ていたものだと気付く、そしてそこから導く事はそこから所謂ラブホに来たということだった。

「なまえも飲むか?」
「ぇ…ぁ…うん…ぁ、あと名前…」
「ん?あぁ昨日みょうじが名前で呼んでくれなきゃいやーっつってたのになんだよ」
「いや、そ…だね」

欠伸1つしながらも穏やかにティーカップに熱湯を注ぎ温める手嶋君は、昨日の欠片を話してくれたのだが全くとして身に覚えがない。なにしろ私なんて、昨日楽しく酔って話したくらいしか記憶が残っていないのだ。
ベッドの周りを見ると昨夜纏っていた服が乱雑に落ちているのが何とも生々しい。そしてこの言葉少ない空間に耐えられなくて、ヘッドボードに置いてあったリモコンを取り、ニュースでも流そうと私は思ってしまったのだ。ピッという音と共に流れ出したのは、激しい喘ぎ声を出しながら大っぴらに開脚したところに男優さんが身体を入れているところであった。即座に電源ボタンを押したが当たり前に間に合わなかった。

「くっ…本っ当におもしれぇな…」
「だ、だって…!」

紅茶を淹れていた手嶋君が、堪らないとばかりに笑ってなし崩し的にしゃがみこんだ。笑いのスイッチが入ったらしく止まらないらしい。そりゃ、そっちの立場なら爆笑ものだろう。こっちなんて情けないやら恥ずかしいやらで反論の言葉が見つからない。

息絶え絶え笑っていた手嶋君が湯気が立つティーカップを持ちながら私が乗っているベッドにギジリと軋む音をたてて座る。近くなる距離に身を引いた。手嶋君は気にすることなくヘッドボードに"ここ置いておくな〜"とティーカップを置いた。

「参ったなァ、みょうじ朝からAVとか過激過ぎだろう」
「ぅ…だから、」

ニッと笑みを浮かべた手嶋君と目が会う。何かを企んでいそうな、いや元々くせ者っぽいからいつもの顔なのかもしれないけれど目が離させなかった。

「昨夜のみょうじはアレより激しかったのになー」
「ぇ…」
「覚えてねぇの?昨日オレをココに引きずり込んでさ、イキナリの脱衣ショーだぜ?んでもって、みょうじオレに見せ付けるみてぇに自分で慣らしてたんだぜ?んでもって…」

手嶋君の口から出てくるのは、驚愕の出来事で、耳を覆いたくなる程の私の痴態であった。私がここに引きずりこんだのか…そして誘ったのは私という事だ。昔の恋心がどれだけ暴走したという話だ。そりゃ手嶋君が魅力的になっていたのは分かるけれど、好意を抱いてるからといってやらかしていい痴態ではどう考えてもなかった。

「あとオレのもすげぇ舐めてくるし、"早く入れてー"っつったり、"もっと奥〜"ってスゲェ煽ってくるし、腰振りまくってさー…」

私のこの身体はやはり一線を超えているらしいです。必死に取り繕うと思っても既に手遅れとの事実。もうお酒なんて呑まないと固く決心するレベルに後悔が襲ってくる。そして昨夜を思い出すかの様に身体の中心が疼く感じが物凄く恥ずかしい。私としては、手嶋君で良かったけれど、手嶋君にとっては災難過ぎる。溢れてきそうな涙をギュッと噛みしめる。

「せめてさ、ゴム付けようとしたんだけど、苗字が生で入れて奥で出してって泣きながら言うもんでさー」
「ぇっ…」
「何驚いてんだよ、奥に出したら出したで"もっと"って二回戦の要望までしてくんだぜ?」

本格的に私は頭のネジが吹き飛んでいたようで、話を聞いていて身体の中心が湿り気帯びてくるのは昨日のが残っていたからなのかと思うと堪らなく穴があったら入りたい。ペラペラと私の痴態を教えてくれる手嶋君の口を塞ぎたいのだが、気になってしまって聞いてしまった。

「まぁ、あとこれは…」
「て、て、手嶋君聞いて!あの、本当ごめんね…わ、私昔から手嶋君の事がす、好きだったから、その、昨日えっちな事しちゃったんだと思うの…!変な事しちゃったのは分かってる。だからお願い…昨日の事は忘れて…!」

謝る事は必要だと素直に思った。そしてみっともない程の告白だったけれど、もう、これでガッツリ振られてしまえるならと思った。最初で最後の私の告白だ。たどたどしく紡いだ言葉を手嶋君にぶつけた。すると急の告白だった所為かピタリと言葉が止まった。

「…オレ今な、"まぁあとこれは、オレの妄想なんだけど"って言おうとしたんだわ」
「え!!!!」
「正直に言えば、昨日確かにここにきてみょうじが自分で服脱いでオレをベッドに引きずりこんだのは事実だけど、オレ何もしてねェよ?」
「ぅ、うそ!」
「嘘じゃねぇって。ホラ、ここにあるゴム二個のままだろ?」
「知らないから!」
「あぁそっかみょうじにしちゃ本当の方が良かったもんな〜。悪かった、悪かった。オレの事好きだったらしいしなー」

痴態というのは、昨日もそうだけれど、最大のミスを今したらしいです。なお一層憎たらしい顔つきになる手嶋君にしまったと思うも全ては遅い。無駄な激白をしてしまった私はシーツを固定したまま口答えをするしかなかった。そしてホッとするも少し残念だと思ってしまったのは頭の隅に追いやった。
冷めてきた紅茶に口を付けた手嶋君が私をみてニッと笑う。

「さて、と、」
「わっ…」
「オレがいくら紳士だからって言っても、さすがに限界なんだわ」
「じ、自分で紳士って言う?」
「裸で縋り付かれながら手を出さないでやったんだから紳士だよなぁ?」

シーツを握りしめていた私をそっと距離を詰めて、ゆっくり押し倒す手嶋君。乱雑なら反抗できる筈なのにやたら優しいその手つきな所為で見事に腕の間に収まってしまった。

「オレな、さすがに興味ねぇ女とラブホ入る趣味はねェし、ましてや他の野郎にお持ち帰りされそうな奴を助ける義理もねぇの」
「ぇ、」
「因みにここに連れ込んだのはオレな」
「本当手嶋君ヤダ…」
「大変だったんだぜー…?裸で擦り寄ってきて一緒に寝るっつーみょうじに何度理性吹っ飛びそうになったか」
「ぅ…だからゴメンって…」
「だから、全裸で涙浮かべながら告白されて黙ってる男なんていねーんだわ。つー事で、コレめくらせて欲しいんだけど、如何でしょうか?お姫様」

不敵に笑う手嶋君が、私の胸元を隠す布団に指をかけたのだった。